「あるか、あらざるか」。クラス感のある重厚な芝居『ハムレット』。

内野聖陽さん主演の舞台『ハムレット』、当日券で観てきました。演出もキャストの演技も素晴らしい。4月28日まで東京で、その後各地の旅公演があります。

東京芸術劇場プレイハウス ハムレット 内野聖陽

シェイクスピアの四大悲劇のうちの一つ。有名すぎる古典ですね。ハムレットとその周辺には、人生のあらゆる要素が詰まっているといわれます。父親の仇であるクローディアスへの復讐、オフィーリアとの恋、ホレイショーとの篤い友情、妹オフィーリアを死へと追いやったハムレットに復讐しようとする兄レアティーズ。親子、兄弟、親友、恋人。『ハムレット』には人間関係のすべてが凝縮されているといっても過言ではありません。

ギリギリまで削ぎ落としながらも、破綻がないばかりか、むしろ要素を傑出させたといえるジョン・ケアードという演出家の手腕、うなりました。ホレイショー役の北村有起哉さんを除く全員に二役以上を演らせる。麻をベースにした衣装や尺八とシンセサイザーだけの効果音は、和テイストでプリミティブ。舞台装置もセリが少し動くくらい。過剰に感じる場面が一切ありません。

有名な”to be,or not to be, that is the question”という言葉も、「あるか、あらざるか、それが問題だ」という日本語になっていました。松岡和子さんはこれ以上ないくらいにシンプルに訳されています。これから観る人は、このセリフが何処と何処に出てくるかも注目してほしい。ストーリーの構成に、そうきたかー!と思うはずです。

演者。とにかく膨大なセリフ量です。特に内野聖陽ハムレットと國村隼クローディアス。内野さんは実年齢なんか超えている若々しさと、堂々たるセンター感が気持ち良かった。國村さんも滑舌がよく、クローディアスと自ら殺めたその兄の亡霊役二役を腹黒さと貫禄たっぷりに演じています。亡霊との二役だからあまり憎らしく思えないのは、役得がすぎる気が。ずるいなぁ。

意外に良かったのが、浅野ゆう子さん。現役感バリバリでね。ハムレットの母としての苦悩と、先王ハムレットの喪が明けぬうちにその弟クローディアスに嫁いだ女としての側面を見事に両立させていました。しかもセリフがはっきりと聞き取りやすい(これ大事)。貫地谷しほりオフィーリアの金管楽器系の声と、アルト系の浅野さんの声が好対照で、結果的にいいバランスでした。

レアティーズを演じた加藤和樹さん。この人は運動神経よく、内野ハムレットとの立ち回りの場面は固唾を飲みますよ。殺陣も担当した山口馬木也さんの仕事ぶりも称えられるべきでしょうね。ミュージカルファンが「!」となるサービスシーンもあります。

MVPを挙げるなら、ただ一人生き残るホレイショー役の北村有起哉さんでしょう。パンフレットによれば、ジョン・ケアードさんは今回の『ハムレット』を「ホレイショーの記憶の物語」として、展開を考えたそうです。ネタバレになるから言えませんが、それを頭の片隅に置いて観るだけで、なるほどと思う場面を多く目撃できるはずです。北村さんのどこか客観視した演技が、物語の哀しみを増幅させます。

ぼく自身の分はともかく、クラス感というか、高級で重厚なものに惹かれます。モノだけでなく、映画や演劇もね。人物の心情や血が通ったリアルさは絶対です。この『ハムレット』、物語は言うまでもなく、作り手と真剣さと鼓動が伝わってくる作品でした。

東京芸術劇場 ハムレット 当日券

この日は当日券での観劇でした。日曜日のマチネ。開演30分前に、半ば諦めながら劇場窓口に声をかけたら、なんとまだチケットが残っていたのです。それも端っことはいえ前から3列目の座席をゲット。諦めずに行ってみるものですねー。チケットに余裕があるなんて、信じられない。ならばもう一度観ようか。今度は地方公演かなと考えています。