『カラオケ行こ!』(2024年 KADOKAWA配給 山下敦弘監督)鑑賞。
結論、素晴らしい出来でした。中学生の成長物語にしてヤクザ者との友情物語。
主演は綾野剛という以外、予備知識一切なしで観に行ったので楽しさ倍増。拾い物にして新年1発目に観るにふさわしい作品でした。
あらすじ
中3で合唱部の部長を務める岡聡実(齋藤潤)は、合唱コンクールの会場でヤクザ者の成田狂児(綾野剛)からカラオケに誘われる。狂児は、組のカラオケ大会の結果、ビリになった組員には恐怖の罰ゲームが待っているという。その罰ゲームから逃れるため、聡実に歌の先生になってほしいと無茶振りしてきたのだ。狂児の勝負曲はX JAPANの「紅」。聡実はカラオケに付き合い、狂児にさまざまなアドバイスを施す。最初は渋々だった聡実だが、次第に狂児に親しみを覚えていく。
物語の重奏的な妙味
物語のコアはふたつ。
中学生・岡聡実の青春物語
卒業を控える聡実は変声期に差し掛かっていて、徐々にソプラノの声が出しづらくなりつつあることを自覚している。
やがて迎える最後のコンクールの練習にも顔を出さなくなり、一人部員である友人の映画部の部室に引きこもるように。
そして迎えるコンクール本番の日、聡実はどのように臨むのか。
聡実と狂児の交流
ナイーブな聡実の前に現れたヤクザ者の狂児。
カラオケボックスで嫌々アドバイスする聡実と、トボけた狂児。ふたりが次第に打ち解けていく過程が、もうひとつの軸。
狂児が聡実に対し「カラオケ行こ」と誘うファーストカットと、思春期の葛藤を抱えた聡実が自分から狂児をカラオケに誘う場面。
聡実が狂児に向き合うことを決めたこの瞬間は、同時に彼が成長への一歩を歩み始めることを表す象徴的な場面でもあります。
聡実は親にも合唱部員にも打ち明けられない変声期の悩み、鬱屈した気持ちを狂児にはぶつけます。
生真面目で内向的な聡実と、人たらし(だけど最も凶暴である)狂児が心を寄せ合う過程がいい。
綾野剛&齋藤潤の二本柱
キャストはヤクザ者を演じた綾野剛さんに尽きます。彼はズルい。スタイルも雰囲気も、とにかく様子がいい。男子が感服するいい男ってたまに遭遇するけど、綾野剛がまさにそれ。そりゃ女子が放っておくわけがありません。
オーディションで選出されたという齋藤潤くんも、内に秘めたナイーブさを表してみせる演技。彼は自分とほぼ実年齢と同じ役柄を演じたわけで、すでに稀有なラッキーボーイ確定であります。
まだ色のついていない齋藤くんを起用した製作陣の戦略も見事でした。
そのほか、脇を固める芳根京子さん(こういう先生いるいる)、北村一輝さん(迫力とお茶目さの同居)、橋本じゅんさん(実はウタウマ)、やべきょうすけさん(ウシジマくんのコワモテ再び)などが一様にノリノリで演じていて、そういう熱量はスクリーンを介しても伝わってきます。
個人的にカラオケの趣味はないのだけど、カラオケの場面の楽しさったらないですね。
狂児の出自をめぐる回想シーンで、父親を加藤雅也さんが演じているのもイケメンの系譜的な面白さ。
楽曲へのリスペクトに溢れている
カラオケでの歌唱場面は見どころのひとつで、演出次第では原曲をディスることになりかねない。ですがその心配は杞憂でした。
聡実が狂児の声質に向いている曲として勧める曲はクレイジーケンバンド、寺尾聰、奥田民生、井上陽水など。今の世代が聴くと新鮮に映るだろうし、一過性のヒットチューンではない、永続的な名曲であることを再認識させられます。
何よりも、ことあるごとに登場する「紅」はストーリーのモチーフとなり、伏線回収のカギを握ります(歌詞に注目!)。
この辺りは楽曲を重要な小道具として散りばめた脚本・野木亜紀子さんの手腕によるもので、とにかくすべてにおいて意味のあるストーリー作りに舌を巻きます。
まとめ
実写邦画の鑑賞からは遠ざかっていましたが、『カラオケ行こ!』は、いま一度注目のきっかけをくれた傑作でした。
今という時間の尊さ、帰らざる日々を描いたものとして、『スタンド・バイ・ミー』(Stand by Me/1986年米/ロブ・ライナー監督)を想起しました。
TOHOシネマズ日比谷で観たのですが、プログラムそのほかグッズは売り切れ。
派手な大作ではなく、口コミで好評が広がっていくような作品です。
未見の方はぜひ。