山田太一原作『異人たちとの夏』(1988年/市川森一脚本、大林宣彦監督)のリメイクとなる『異人たち』(All of Us Strangers/2023年イギリス/アンドリュー・ヘイ監督)。
オリジナルへのリスペクトを感じつつも、モヤモヤする鑑賞後感です。
あらすじ
ロンドンのタワマンに暮らす脚本家アダム。交通事故で亡くした両親に材をとった脚本を書いているが、あまり筆は進まない様子。両親と幼少期を過ごした郊外の家を訪ねた彼は、12歳のときに死別した両親と再会する。同じころ、マンションの階下の住人である青年ハリーの訪問を受け、一度は拒むものの、彼と関係を持つ。
『異人たちとの夏』との主な違い
- 主人公と同じマンションの住人:オリジナルは風間杜夫&名取裕子だが、本作はゲイカップル
- カップルでの外出がある:アダムがハリーをクラブに連れ出したり、自分の実家に連れて行ったりする
- 両親との最後の晩餐:オリジナルは今半ですき焼きをつつくが、本作ではダイナーのようなところでファミリーセットなる定食メニュー
個人的所感
鑑賞直前に『異人たちとの夏』を久しぶりに再見(レコーダーに録りだめたままにしてあるのだ)。
野暮だけど、どうしたってオリジナルと比較してしまう。
結論オリジナルの良さが際立つとしか言いようがない。
ドライな親子関係
これは英国との文化の違いがあるのだろうけど、本作で描かれる親子の関係はドライ。
長く留まろうとする息子に「帰ったほうがいい」と言ったり、息子の恋人が同性と知ったときには母親は突き放すような態度に出たり。
どちらかと言うと、息子は大人になった今も手がかかり、どこか疎ましげな言動が滲み出ている。
オリジナルの父親=片岡鶴太郎は職人特有のぶっきらぼうななかにも息子を誇らしく感じていて、母親=秋吉久美子にとって息子はいつだって心配な子ども。慈愛に満ちているわけです。
ドラッグが媒介?
アダムとハリーが興じるのはセックスとアルコールだけではありません。
ふたりが最初に親密になる場面ではマリファナが、クラブではケタミンを使うなど、ドラッグをけっこう楽しそうにやって飛んでます。
異世界と現世を行き来するフックとして、このドラッグが機能しているような気もします。夢から現(あるいはその逆)という演出には、正直とまどいました。
ドラッグを使っているゆえピンピンハイテンションで、オリジナルのように主人公が生気を吸い取られる場面もない。大林宣彦演出とひと目でわかるビビッドなSF・ホラー要素は排し、極力内面にフォーカスした結果なんだろうけど。主人公が抱える孤独の苦悩は感じられず。
ノスタルジーを排したリメイク
オリジナルのもうひとつの主役は、浅草。風間杜夫と片岡鶴太郎&秋吉久美子の親子3人が、最後の晩餐に向かう道程には浅草の露店や煎餅屋さんが出てきます。劇中では他にも父子でキャッチボールしたり、裏通りを散歩したり。
親子の情愛とノスタルジー=郷愁の舞台装置として、浅草は不可欠なのですが、本作にはそれがありません。主人公の実家はロンドン郊外としか字幕上では分からず、その辺の描写がなかったのも違いです(英国住まいでわかる人にはわかるんだろうけど)。
この辺もまたドライと感じる作風なのですよ。
まとめ
オリジナル(こういう言い方も良くないけど)の秀逸さが際立つゆえ、比較目線で鑑賞せざるを得ないのは悪しからず。
でもやはり無理してリメイクする必要なかったな。確実に損してるもん、この作品。
延々ゲイカップルのからみをみせられために観に行ったわけでもなし(R15+だってさ)、ラストに恋人同士が星になる幕切れも、なんだかよくわからない。
けれども山田太一は生前この脚本でオッケーを出したわけで、なおさら完成後の評価をお聞きしたかったな。間に合わずほんと残念です。
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