2019年以来の再演となるミュージカル『ファントム』を観てきました(2023年9月2日、東京国際フォーラム ホールC)。
2023年版『ファントム』イントロダクション
ガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』をもとにしたミュージカルで、大きな違いは怪人ファントムを繊細な感性を持つ青年エリックとして描いていること、父親との関係性を描いていること。『オペラ座の怪人』のロイド・ウェバー作曲「Overture」のような有名曲こそありませんが、作曲家モーリー・イェストンによる楽曲は叙情的でメランコリック、そして難しい。
本作は2019年に城田優がファントム役にして演出も担当。今回2度目の再演です。ファントム役はダブルキャストで今回は加藤和樹の回で観ました。ファントムの心を溶かす歌姫クリスティーヌ役には真彩希帆。城田優さん演出は中盤こそ冗長になるものの、終幕の演出が見事で緩急の使い分けもうまい。加藤和樹さんも歌唱が格段に上達しており、線の細い体躯がそのまま役づくりになっています(「しっかり栄養つけてほしい」と思うくらいスタイルがシャープ)。
純真無垢ゆえの罪なヒロインに説得力を持たせた真彩希帆
しかし、最も素晴らしく、おそらく多くの観客の心を捉えたであろうのが真彩希帆さん。彼女の突出した才能が舞台を格別のものに昇華させています。
宝塚の星組時代、バウホール公演『鈴蘭(ル・ミュゲ) —思い出の淵から見えるものは—』(2016年)で、礼真琴さんの相手役を堂々と演じていた印象がありましたが、正直、ここまで心を持っていかれるとは……。高い歌唱力とバレエに裏打ちされたダンス技術、加えて演技力も兼ね備えたトリプルスレットの持ち主であるという根拠は、衆目の一致するところでしょう。
彼女がすごいのはトップ娘役という才能とスター性だけでなく、純真無垢なヒロインを体現できていること。5年後、10年後に大きく羽ばたき有名になった後では説得力を持ち得なくなってしまう。クリスティーヌを演じるに、これ以上ないほど「今が旬」だったのではないでしょうか。彼女はヒロインを超越して「聖母」でした。
それにしても、イノセンスとは罪だ。彼女のイノセンスがエリックの心を開いていくのだけど、結果その無垢さは無神経な態度となって自分に跳ね返り、エリックをどん底に突き落としてしまう。社会に出てきたのに世間ずれしていない人は稀有だと思うけど、そういう人が周りに与えるのは好影響ばかりではないのだ、という身も蓋もない感慨を持って劇場を後にしたのでした。
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