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【演劇】『寂しさにまつわる宴会』:内面をえぐる物語、演劇の常識を変える世界

上田久美子演出『寂しさにまつわる宴会』

ウエクミこと演出家・上田久美子さんのカンパニー「プロジェクトゥミ」の旗揚げ公演を鑑賞してきました。
会場は東京・蒲田にある銭湯、その名も「蒲田温泉」。蒲田駅から15分ほど歩いた奥まった路地に佇む公衆浴場です。
ここを会場に選ぶあたりに鬼才の片鱗を垣間見ますが、コンセプトといい演劇の構成といい、何ひとつ予定調和がなくエッジが立ちすぎの芝居でした。

上田先生が作・演出だけでなく、自ら出演や合間に挟まれたトークの進行役、はたまた照明や音響など裏方も兼ねるというマルチプルな活躍。
フランスでも活動する竹中香子さん、大衆演劇界を代表する三河家諒さんというふたりの女優が世界観を固めます。

何もかもが掟破りの舞台

なにしろ公衆浴場の宴会場を使うから舞台(といっても客席フロアとほぼ同じ高さ)と客席が近いだけでなく、観客は座椅子に座ってビールやヤキソバを片手に鑑賞OK。
お風呂の後に芝居を楽しめるような趣向なわけです。
雰囲気としてはスナックのカラオケや温泉の宴会場で、そこに大衆演劇をモチーフにした物語を折り込む。
こんな発想できるのは上田先生ならではで、ちょっと想像すらできない。

大衆演劇×アバンギャルドな物語

しかもフツーに演劇を披露するわけではなかった。
大衆演劇で端役を生きながらえている女優と、ファンを自称して彼女を追いかけまわす冴えない女性の不思議な交流。いちファンとしての女性の行動は徐々にエスカレートしていき……というストーリー。
ふたりの女優の役作りというか、キャラクターの変わり身の凄みを間近に見て震撼したのですが、構成もまた仰天の連続です。

たとえばインターミッション的に入る上田先生のモノローグ、エキストラとして観客を使う、舞台上で三河家諒さんにメイクをさせる。
なかでも自身の体験というセクシャルなモノローグは衝撃的で、これは果たして嘘か現実か。

上手と下手に分けた客席の間に花道を入れて役者が往来するのは、上田先生が在籍した宝塚歌劇の客席降りの趣向を彷彿させます。
さらに観客に孤独をテーマにしたアンケートとして、その場で答えさせる演出も。これが上田先生のいう「体感型演劇」のひとつか、と。

「寂しさ」は上田先生の目下のテーマだそうで、寂しさをしょっちゅう抱えるワシ自身をぶっ刺すものでした。

まとめ

鑑賞したのは2025年2月1日19時公演。「すごいものを見た」としか言えず、ワシの中で咀嚼しきれず、本記事アップまで時間がかかってしまいました。
ひとつ納得したのは、上田久美子という人は宝塚歌劇の枠内に収まりきらない作り手だということ。

フリーの芸術家としてこれからどんな世界を見せてくれるのか。
おそらく近い将来演劇界の賞レースをにぎわすような、観たことのない世界を創ってくれるでしょう。

そうそう、ふと『淋しいのはお前だけじゃない』(1982年・TBS)という連続ドラマを思い出しましたね。
「大衆演劇」と「寂しさ」というキーワードで。

蒲田温泉『寂しさにまつわる宴会』

この記事を書いた人

hiroki「酒と共感の日々」

hiroki

Webの中の人|ウイスキー文化研究所(JWRC)認定ウイスキーエキスパート|SMWS会員|訪問したBAR国内外合わせて200軒超|会員制ドリンクアプリ「HIDEOUT CLUB」でBAR訪問記連載(2018年)|ひとり歩き|健全な酒活|ブログは不定期更新2,000記事超(2022年11月現在)|ストレングスファインダーTOP5:共感性・原点思考・慎重さ・調和性・公平性