最初から結末までこれほどノレない映画も珍しい。第77回カンヌ国際映画祭パルムドールと第97回アカデミー賞をダブル受賞した作品ですが、なぜこうも絶賛されるか不思議でなりません。
乗れなかったのは、主人公のカップルふたりに全然共感できなかったからなんだろうと自己分析。もう一度観れば深堀りできるけど、そこまでの気力はない。
以下ネタバレで感想を言っていくので、鑑賞を楽しみにしている未見の人はブラウザバックしてちゃぶ台。
ショーン・ベイカー監督にもオスカーがもたらされた『ANORA アノーラ』(2024年アメリカ/Anora)は、ニューヨークのストリップクラブで働くロシア系米国人アニーことアノーラ(マイキー・マディソン)と、ロシアの新興財閥の御曹司イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)の出会いと別れを描くラブストーリー。
まず日本版公式Webサイトは思い切りアゲアゲなビジュアルを施していますが、騙されてはいけません。映画の演出は全く異なり終始淡々と、それでいて陰鬱。いわゆるハリウッド映画的な音楽の盛り上げもない。ましてやロマコメでもない。
ストリップクラブの仕事の様子を映した冒頭から、いきなりヒロインであるアノーラのおっぱい全開。彼女の仕事姿勢は好色さよりも、まじめでストイック。いわゆる風俗や売春婦と括られるのを好まず、自分のことをストリップクラブのダンサーだと明言します。確固たる自己肯定感とアイデンティティを持っているんですよね。
クラブで客であるイヴァンのご指名に応えて気に入られたアノーラは、同じロシア系のよしみもあってか急接近。週1万5000ドル(現在のレートで約220万円)で愛人契約を結びます。
その後とんとん拍子で交際へと発展し、イヴァンは旅先のラスベガスでアノーラにプロポーズ。その場で結婚許可証を申請してしまいます。
ちなみにラスベガスは婚姻手続きが簡単な土地として有名みたいです。
R18のレーティングがかかっているとはいえ、前半のふたりは会えばヤッてるか、シューティングゲームをやってるかの描写が目立ちます。
その辺はまぁ付き合えるとして、ふたりが勢い余って結婚する場面あたりから「??」となっていきました。
本作の3大ターニングポイントはおおよそ下記の通り。
- アノーラとイヴァンの衝動的な結婚
- 息子とアノーラとの結婚を許さないイヴァンの父親が帰国を強制→イヴァンがアノーラをほっぽって逃走
- なんとかイヴァンを見つけ出したアノーラがイヴァンとの結婚を彼の両親に直談判→冷たく却下される
若さゆえとはいえ、この一連の流れはあまりにもジェットコースターすぎないか。
身分違いの恋はラブものの定番ですが、遊びしか頭にないドラ息子の本性にもめげず(イヴァンが父親の手下に家を急襲され、着の身着のままで逃げ出すあたりとか)、なんとしても彼と結婚しようとするアノーラのこだわりが理解不能。
それは「恋は盲目」的な行動ではなく、闘争心からではないのか。
その闘争心は親元に連れ戻されて腑抜けになったイヴァンを立ち直らせたいからか、どうしても玉の輿に乗りたいからか、イヴァンの両親を説得して自らのプライドを保ちたいからか。
イヴァンという男子がまた酷い人物で、追いかけてくるアノーラを前に酒とドラッグで現実逃避し、自分には何もできないと匙を投げる始末。
要するにフツーにクズなわけです。なぜこんな奴にアノーラがこだわるのかワシにはわからない。理解の範囲を軽く超えています。
もうひとりカギを握る人物が、イヴァンの父親の手下に雇われたイゴール(ユーリー・ボリソフ)。
イゴールは結婚を踏みにじられたアノーラに同情するも、彼女はイゴールを強姦魔呼ばわり。そこまでされてもそっと見守り、ぼそっと声をかける。
仕事と割り切って放っておけばいいのに、なぜそこまで優しくなれるのか。これもまたわからない。
つまるところ現状を打破しようともがいてもがきまくって、結局うまくいかなかった人たちの話。
リアリティのなかに美しさ・はかなさを映画に求めるワシにとっては、強い自我と七転八倒な空回りを見せられただけのやりきれなさを感じさせられた時間でした。
これがトレンドなんですかね、映画の。なんか虚しいね。