ポール・トーマス・アンダーソン監督・脚本の『ワン・バトル・アフター・アナザー』(2025年アメリカ / One Battle After Another)は現代の風刺とエンターテインメントとを両立させたサスペンスで、162分もの長尺を疾走させます。
社会派作品にはドキュメンタリータッチの堅苦しさが付きがちですが、第98回アカデミー賞で作品賞など6部門を制したのは「気がつけば社会問題を扱っていた」と思わしめる巧みな塗し方によるものでは。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』あらすじ
極左革命グループ「フレンチ75」を率いるも革命家くずれとなってしまい、落魄れた生活を送るパット(レオナルド・ディカプリオ)。
銀行強盗に失敗した元同志であり恋人が移民取締機関のロックジョー大佐(ショーン・ペン)に仲間を売ったため、ディカプリオは娘ウィラを連れてメキシコに逃亡するはめに。
16年後、ウィラ(チェイス・インフィニティ、好演!)の空手師範であり移民コミュニティを支援する“センセイ”ことカルロス(ベニチオ・デル・トロ)の助けを得ながら、パットは大佐の追撃をかわそうとする。
諸問題を綯い交ぜにしながら冗長にさせない
このあらすじだけ見ると逃亡者ディカプリオが善、追跡者ショーン・ペンが悪のようですが、本作はそんなよくある構図ではありません。
どちらも屈折とコンプレックスを抱えていて、どうにかそれを乗り越えようとする。特に厳格なようでその実は歪んだ内面を隠し持ち、不気味とアイロニーを併立させた大佐のキャラ設定が見事で、ショーン・ペンがこれを怪演しています。
アカデミー賞で助演男優賞を獲ったのに授賞式当日はウクライナを訪問していたのも、いかにもこの人らしい。
かつて日本で起きた学生運動を彷彿させるような冒頭のシークエンスを経て、アイデンティティ、親子の情愛、セクシャリティ、移民、人種差別などを詰め合わせているのに、軽い疲労とともに充足に満ちた鑑賞後です。
驚きのカーチェイス
ネタバレなしの記事ゆえ詳しくは書きませんが。
クライマックス、ウィラのダッジ・チャージャーとヒットマンの駆るフォード・シェルビーGT500、そしてパットの乗る日産セントラ(チューンしているがボロ)の三つ巴のカーチェイスには正直のけぞりました。
複数のクルマの車体ぶつけ合いを細かいカット割りで見せる従来型の派手なアクションが皆無。なのに固唾を飲んでスクリーンに釘付けされる。
なんというか、クルマだけでなく道路さえも砂漠を這う生き物のような……正直この場面だけでも元が取れた気分です。
上の動画で撮影監督のマイケル・バウマンさんが『フレンチ・コネクション』(’72年)を引き合いに出していますが、バックミラーの効果的な使い方などから『ブリット』(’68年)に近い印象。打楽器中心の劇伴が派手ではない分むしろスリリングです。
まとめ
ハートウォーミングでもあり、アイロニーでもあり、人生の虚実でもあり。
テーマを単一でなく複層的にしたのがアカデミー会員の支持を受けたんですかね。
公開前にスピルバーグが5回だか6回だか観て激賞したとかいう予告映像がインスタに流れてきましたが、そういう万人受けしない、ある意味で玄人向けする作風なのかもしれません。
2025年12月10日 109シネマズ プレミアム新宿 THEATER5 S席
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