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『藪原検校』、なぜこの悪党に魅かれるのか。

新生PARCO劇場

井上ひさしさんが盲目の悪党を描いた戯曲『藪原検校』を観に行ってきました(2021年2月11日、夜公演/PARCO劇場)。

塩釜の漁港で盲目の身に生まれた杉の市(市川猿之助)が、盲人の役職の最高位を目指し成り上がっていくストーリー。
……とはいっても胸のすくような成功物語ではなく、むしろ真逆。
検校の就位に必要な719両の大金を手中に収めるべく、強請り、盗み、殺しとありとあらゆる悪行を重ねていきます。

親殺しに始まり、師匠の妻を寝取った挙げ句に師匠も殺め、塩釜から江戸に出た後も利用できる人間は利用後に殺す。
目あきと対等になるには学問を究めることと説く座頭・塙保己一(三宅健)に、カネこそすべてと与しない。
高利で貸した借金の取り立てで、借り手である母娘を前に最初はにらむだけ、次に軒先で盲人をいじめるのかと泣き叫び(もちろん小芝居)、最後は居直って恫喝やがて犯すという最低のやり口。

普通なら胸くその悪い話と感じるところ、どういうわけかこの杉の市(後の藪原検校)を憎らしく思えない不思議。
生い立ちの悲劇性を差し引いてもそう感じるのは、この主人公が自分のハンデをものともしないどころか、「弱者の恫喝」を続けてのし上がる「鋼のメンタル」(©百田尚樹さん)の持ち主だからかもしれません。

市川猿之助さん演じる杉の市は、もう歌舞伎役者そのもののアプローチ。
狂言回しの盲太夫を演じる川平慈英さんは、セリフ量が膨大のうえ舞台に出ずっぱり。
三宅健さんは塙保己一や杉の市の父親など数役をこなしていましたが、ルックスがすっきりしすぎの感が……まぁ、でも話の筋からいったら、それくらいでバランス取ったほうが良いのかな。

本作の蜷川幸雄演出版(2007年、古田新太主演)、栗山民也演出版(2012年、野村萬斎主演)を両方観たのですが、結局古田新太さんの藪原検校が一番しっくり来るかな、と。
野村萬斎さんは役の幅を広げたかったかもしれませんが、悪の男は任ではなく、どうみても塙保己一のほうが似合うと思っちゃう。

藪原検校(PARCO劇場)

余談ですが、約3年5か月の休館を経て昨年新装オープンした渋谷パルコのPARCO劇場にようやく初めて足を運べました。
キャパが636席になった(200近く増)のに、あの傾斜のついた客席はそのままに、たいへん見やすい構造になっています。
終演後に会場を出るときも、なんと外階段も使うことができ、大幅に導線が改善されています。
他の劇場も客席を詰め込むだけじゃなくて、こういうところも見習ってほしいなぁ。

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hiroki「酒と共感の日々」

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