映画『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』(Sicario:Day of the Soldado)、2018年11月16日公開より一足先に「丸の内ピカデリー 爆音映画祭」のプレミア上映で観てきました。以下ネタバレ要素は無いですが、これから見ようという人は読まないことをお勧めします。
原題の「Sicario」とは日本でいう”殺し屋”のことで、このタイトルのほうが意味深で好きなんですが……。日本公開向けに日本語カタカナにした場合、ボーダーライン(=国境地帯、善悪の境界線)というタイトルにしたほうが広く訴えられるのでしょう。
前作『ボーダーライン(Sicario)』(2015年、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)はメキシコ無法地帯の麻薬戦争を柱に、駆け引きと騙し合い、必要悪、私刑が描かれたハードボイルド。静かに進むからこその緊張感の極致、それがたまらない映画でした。
静かなる緊張感は前作に譲るものの、アクションスリラーとしては勝るとも劣らないのがこの2作目です。
今回全編の柱となるのは、まさに今現在のトランプ政権の目玉政策のひとつでもあります。詳細はあえて触れませんが、あまりのタイムリーなリアリティに驚かされました。
製作当時は、まだ大統領選挙中あるいは選挙前だったかもしれませんが。製作陣の予見の冴えていること!
前作からの変わったポイントは下記です。
スタッフの交代
監督は『ブレードランナー2049』など、『ボーダーライン』以降売れっ子になったドゥニ・ヴィルヌーヴさんから、イタリア人のステファノ・ソッリマさんに交代。この人が前作の世界観を最大限に尊重しつつ、物語のえげつなさをアップデート。ただし、描写・表現自体は「R15+」から「PG12」へとソフトに。より興収を稼ぎたいのと、映画としての娯楽性を追求したってところでしょうか。
前作のあの不穏で不気味なスコアを手掛けたヨハン・ヨハンソンさんは、亡くなったそう(エンディングロールで追悼クレジットが出ます)。で、音楽はそのお弟子さんに当たるヒドゥル・グドナドッティルさん(噛みそう)が担当。この人もまた、世界観を見事に踏襲してくれています。
キャストの入れ替え
ベニチオ・デル・トロさん、ジョシュ・ブローリンさんは続投。前作ヒロインのエミリー・ブラントさんに代わり、新星イザベラ・モナーさんが。
やはり華って大事。イザベラさんの役とその運命はともかく、そのかわいさもあって、これが映画の世界だと気づかせてくれます。キホン男優びいきですが、女優の魅力を引き出してもいる映画は良いですね。
まとめると、主要スタッフがほぼ全交代にもかかわらず、1作目の世界観を壊さずに、かつスケールもアップしている点が特筆です。完全に独立したストーリーで、仮に前作を観ていない人でも置いてけぼりにされることはありませんのでご安心を。
気になるのは「3部作」とされている、このシリーズの続編の行方。本作のロケーションマネージャーのカルロス・ムニョス・ポータルさんが、メキシコで蜂の巣状態の遺体で発見されています(IMDbではassistant location manager mexicoとクレジットされている)。
上映前のトークショーで、この事件を紹介した映画ジャーナリストの宇野維正さんは「裏社会の警告ではないか。これ以上、映画界が我々の世界に入り込むな、という」と話していて、なるほどこれは怖い。
昨今はマーベルかディズニーか、オールスターキャストにモノを言わせたコラボレーションと最新の映像技術にモノを言わせたテーマパーク映画ばかり。
この『ボーダーライン』の映像もすごいのですが、生身の人間のリアル感が伴っているのが最大の違い。きちんと人間を描いたドラマを、もっとたくさん望みたいですな。