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映画『フェラーリ』:レースと車を触媒に、戦う男と女の世界を描くドラマ。

マイケル・マン監督『フェラーリ』

『ブラックハット』以来9年ぶりとなるマイケル・マン監督作『フェラーリ』(2023/Ferrari)、マンの信者としては待った甲斐ありの、期待以上の作品でした。
優れたレース映画でありつつ、人間ドラマとラブストーリーでもあり、それでいてマイケル・マン節がうなりを上げている。
冒頭、資料映像のようなエンツォ・フェラーリ(アダム・ドライバー)の現役レーサー時代を描いた白黒画面から転じて、エンツォが愛人リナ・ラルディ(シャイリーン・ウッドリー)のベッドから起床するシーンへ。
ここから、もうマンの世界。思わずウルッとw
ネタバレなしで振り返ります。

服に着替えて家を出る、車で移動する、雑踏の中の主人公を遠景から捉える、かと思えば観客はときに登場人物と一緒に歩いているかのような距離感の近さもある、テーブルを挟んでの会話を肩越しに交互に捉える――。
これらすべてにマン監督と一発でわかる画のスタイルがある。
おしゃれで洗練されていて、台詞に寄らず「映像で語る」世界がある。

マン監督といえば「男の世界」「男の友情」を描くことに定評がありますが、むしろマンは(男だけでなく)女もきちんと描いています。
思い出してもらえればわかるはずですが、『ヒート』(1995/Heat)にせよ『マイアミ・バイス』(2006/Miami Vice)にせよ、女が物語のカギを握っているじゃないですか。

実は女を描き込むマン監督

本作『フェラーリ』について言えば、マンは過去作以上に女の矜持をクローズアップしています。

エンツォの妻ラウラ(ペネロペ・クルス)も、パートナーであるリナも、憂いを帯び、明らかに疲れている。
フェラーリ社の共同経営者であり財務を握るラウラは、資金難に直面する自社とエンツォの経営方針、さらには女グセの悪さに辟易している。
難病で亡くした愛息ディーノの毎朝の墓参も別々の車で行くという決裂ぶり。
しかし、会社の重要な意思決定時には豪胆で度量の広い懐を見せるゴッドマザー。
本作のペネロペ・クルスは素晴らしいです。

いっぽうのリナは12歳になる息子ピエロを認知するよう暗に迫っているが、態度を明確にしないエンツォとの関係に後悔の念を抱いている。
しかし彼の苦しみと孤独を深く理解し、寄り添い、煮え切らない態度を責めたりしない。静かに待つ。

決してカリスマの陰で泣く女ではなく、あくまで対等なパートナーとして二人の女が描かれます。
マンの作品は「男の映画」などではなく、むしろ女性の存在なくして成立しない世界なのです。

フェラーリとレースとドライバーたち

「とにかく俳優をかっこよく見せる」のがマン監督ですが、本作は第二の主役ともいえる車の描き方も折り紙つき。
デザインと性能の極致フェラーリという題材を経ているから当然ですが、思い出してほしいのは『マイアミ・バイス』。
フェラーリを妖しく、ひときわ美しく映していたし、マン監督自身が『フェラーリ・チャレンジ』(フェラーリ社が世界各国で開催するレース大会)に出場するほどの熱の入れよう。
そりゃカッコイイわけです。

物語後半の1957年ミッレミリア(イタリア国内1000マイルを走破する公道レース)は、カーマニア垂涎の疾走感に溢れている。
レースに臨むフェラーリの精鋭ドライバーの挑戦と、レースの高揚、光と影。その結末に嘆息させられます。
白髪のベテランドライバー、ピエロ・タルフィを演じたパトリック・デンプシーが一等シブかった。

台詞も振るっている

「レーサーというのは、誰もが自分は死なないと信じている。死と背中合わせの情熱だ。恐るべき喜びだ」「私の車に乗るなら、勝つために走れ。ブレーキは忘れろ」「どんなものであれうまくいく場合、見た目も美しい」――。
エンツォの吐く台詞の数々は、アダム・ドライバーの説得力ある演技とも相まって、グサグサ刺さってきます。

ドライバーからエンジニアに転じたエンツォは、マンの手にかかると論理的で頭脳明晰だけど、フェラーリを「走るために売る」ために情が皆無。
サングラスは表情を気取られまいとしているのか、でもその奥の強靭で冷徹で、狂気を帯びた意志は隠しようもない。
これが妻や愛人を前にすると、ふわっとしているダメンズになってしまう。
アダム・ドライバーは十二分にかっこいいし、かっこよく演出しているのだけどね。
人としてのコントラストを、レースでの走行シーンにも重ねてくる編集にもうなりました。

まとめ

マン監督の信者としては大満足で、今年観た映画のベスト3に入ることは間違いない。というか、おそらく今年ナンバーワンでしょう。
正直アーティスト(の作品を)好きすぎると、こうして書くのが躊躇われるのですよね。
事実、マン監督の次回作と噂される『ヒート2』の原作本は、未だに読後感を書けていません。

ちなみに本作の配給、NEONは『パラサイト 半地下の家族』(2019韓国/ポン・ジュノ監督/Parasite)『落下の解剖学』(2023フランス/ジュスティーヌ・トリエ監督/Anatomie d’une chute)などカンヌ映画祭でパルムドールを獲得した作品を配給している独立系製作会社で、なるほどお目が高い。

公開中に劇場でリピします。

この記事を書いた人

hiroki「酒と共感の日々」

hiroki

Webの中の人|ウイスキー文化研究所(JWRC)認定ウイスキーエキスパート|SMWS会員|訪問したBAR国内外合わせて200軒超|会員制ドリンクアプリ「HIDEOUT CLUB」でBAR訪問記連載(2018年)|ひとり歩き|健全な酒活|ブログは不定期更新2,000記事超(2022年11月現在)|ストレングスファインダーTOP5:共感性・原点思考・慎重さ・調和性・公平性