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【ノンフィクション】猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』:望んで地獄に突き進んだ経緯

猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』

国を挙げての総力戦になったときに備えての調査研究・シミュレーションを行っていた「総力戦研究所」。
日米開戦の8か月前、首相直下の教育機関として開設された同研究所には陸海軍・官僚・民間の若き精鋭たちが集いました。

彼らが出した答えは「日本必敗」。

知性と膨大にして精緻なデータ分析を駆使して導き出された結論は、しかし葬られ、日本は戦争へと突入してしまいます。
猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫/1983年8月・世界文化社より単行本化)は総力戦研究所の旗揚げから日米開戦そして敗戦、総力戦研究所メンバーの消息までを克明に記したノンフィクションです。

タイトルにある昭和16年(1941年)はまさに太平洋戦争開戦の年。
総力戦研究所には大蔵省(現在の財務省)、商工省などの省庁のエリート官僚、陸軍省の大尉や海軍省の少佐、さらには日本製鉄や日本郵船、日銀、同盟通信(現在の共同通信)といった組織に属する優秀な頭脳計30人が集められ、もしアメリカと戦争したら日本は勝てるのかというシミュレーションを行っていました。

大蔵官僚は大蔵大臣、日銀出身者には日銀総裁というような役割をそれぞれが演じる「模擬内閣」が組まれ、彼らは資料やデータを持ち寄って議論します。
その結論は「緒戦は優勢ながら、徐々に米国との産業力、物量の差が顕在化し、やがてソ連が参戦して、開戦から3〜4年で日本が敗れる」というもの。
原爆投下を除き、ほぼ正確に的中させていたのです。

にもかかわらず、政府はその直言を事実上無視してしまう。
当時の近衛文麿内閣にこの報告が上げられた際、陸相の東條英機は「君たちの言うこともわかるが、“日露”がそうだったように、戦争はやってみないとわからない」と発言した、と。もうア然とするしかありません。

東條英機は戦犯の象徴的な存在として知らされてきましたが、東條をはじめとするいわゆるA級戦犯だけが開戦の原因となったわけでは当然あるはずがない。
本書ではなぜ「負けるとわかっていた」戦争へと国家、国民がズルズルとなだれ込んでいったのかが綴られます。
戦争に必要な石油はどうみても不足するのに「足りる」とするデータの恣意的な運用、軍部が潤沢な資金を使って政治家を主戦論に傾けさせた経緯、仁義などという言葉が大臣の口から飛び出す外交実態、内容よりも結論ありきの日本型意思決定プロセスーー。

そのどれもが読んでいて目を覆わんばかりの酷いもので、そこには引き返せたはずの運命の岐路よりも、人間のダメダメかげんというものを突きつけられる虚しさがあります。
どうしてこうなるかね、っていう。

やるべきことに不作為、やらなくていいことに血道を上げる現政権は、あろうことか憲法改正に手をつけようとしています。
私は憲法それ自体の議論は否定しませんが、この史上最低の政権では絶対にさせてはいけない。
そんな不穏な今、手に取るべきタイムリーな1冊でした。

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hiroki「酒と共感の日々」

hiroki

Webの中の人|ウイスキー文化研究所(JWRC)認定ウイスキーエキスパート|毎日健全な酒活・週5でBAR飲み|会員制ドリンクアプリ「HIDEOUT CLUB」でBAR訪問記連載(2018年)|ひとり歩き|ブログは不定期更新2,700記事超(2026年5月現在)|ストレングスファインダーTOP5:共感性・原点思考・慎重さ・調和性・公平性