主要な登場人物全員かっこいいって話が好きなのです。ノンフィクションではお目にかかれないけど、フィクションはたまにある。
藤原伊織(1948-2007)という人の小説もそうで、理想的な人がわんさと出てくるのが特徴です。
藤原伊織『シリウスの道』(文春文庫/文藝春秋より2005年初版)は18億円もの巨額の広告コンペの内幕を軸に、幼なじみの男女3人の数奇な運命を描くもの。企業小説でもありミステリーでもあり、なにより血の通った人間ドラマです。
藤原さんは元電通マンだけに巨大広告代理店の実態や組織の体質、広告マン(特に営業)の人となりの描写がリアリティに満ち溢れています。
『シリウスの道』あらすじ
主人公・辰村祐介(38歳)はで大手の東邦広告十二営五部の副部長を務めるやり手の営業マン。
彼には明子と勝哉というふたりの幼なじみがいるが、3人には決して公にできない秘密があった。
25年後の今、その過去を知っているという何者かからの脅迫状が明子の夫のもとに届く。
キャラの並外れた格好良さ、どれもが柱になりそうなプロット
コンペに絡む辰村とその周辺のキャラクターがいい。実にいい。
辰村に指導される戸塚は現職閣僚を務める父親のコネで入社した25歳の青年で、一見出来の悪い坊っちゃんが隠し持つ素性。
キャバクラを日本の誇るサブカルチャーとうそぶく笹森、コンペの準備で社内外に力を発揮する派遣社員の平野。
歯に衣着せぬ物言いで口論から社内抗争に発展させたため、左遷直前だった辰村の異動をツルの一声で取り消した社長の園井。
さらに辰村と部長の立花とのロマンス。
これらの人間関係がコンペという一大イベントに縦横に展開します。
日本の広告界特有の一業多社制、企業がテレビ媒体のCMを代理店にいかに差配するのか、コンペがどのような過程を踏むのかが仔細に描かれます。
台詞の格好良さも紹介したいけど、未読ならそこで味わってほしいのであえて割愛。
のみならず、これに辰村の幼なじみをめぐる因果が差し込まれ、しかもそれが辰村の挑むコンペのスポンサーとの予期せぬ影響をもたらす。
藤原さんの直木賞受賞作『テロリストのパラソル』のヤクザ者、浅井が本作に再登場し、辰村や立花と絡むくだりもうまいなぁ。
みんな大好き、電通
それにしても「ビジネスハードボイルド」と記された帯に抵抗があります。広告代理店を舞台にした、れっきとしたハードボイルドなのですから。
読者ターゲットのサラリーマンに売るために付け足したのでしょうけど、かえってチープな感じがしてしまう。
素晴らしい小説なのにもったいない。
現在のSNS界隈で電通といえば嫌われ者の側面もありますが、昭和の徒花のようにいわれるのは違うんじゃないかな、と。
時代錯誤のブラックとして叩かれがちな『電通鬼十則』とかも、私は正直嫌いじゃない。
それがガチで打ち込めるものなら本望でしょうに。
同じ広告代理店が舞台の『小説電通』(大下英治、ぶんか社)もリアルですが、藤原さんの書き味は人間の非合理と不条理を活写している点で共感するのです。
こうなってほしいという結末にはならない。わかっているのですが、寂しく、悲しく、でもそれが堪らない。
本作の、論理だけではない、ぶっきらぼうな終幕に異化効果を見ました。
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