このブログで何度か触れていますが、東京・新宿一帯はいろんな表情があって大好きな街です。強いてひとことで示すなら「成熟した文化の街」でしょうか。文化が交錯する街なら、自分の地元に近い上野もそう。ですが、上野と新宿の違いは美術館の数。上野公園に5つも大きな美術館が集中しているのに対し、新宿駅周辺には西口の東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館しかありません。
が、実は東口こじんまりした美術館があります。カレーや菓子で有名な新宿中村屋ビルの3階にある、中村屋サロン美術館です。ごく小さな美術館で展示されているコレクション作品も約30点ほどですが、静かに絵と向き合うにはいい場所です。入館料は展示によって異なりますが、ぼくが足を運んだときは大人100円でした。
中村屋サロン美術館の歴史は古く、ルーツは新宿中村屋本店創業の1909年(明治42年)に遡ります。中村屋の創業者である相馬愛蔵・国光夫妻が芸術文化に造詣が深く、夫妻が愛蔵と同郷の彫刻家・荻原守衛(荻原碌山)を支援。その周りにはいつしか芸術家が集うようになり、ここから才能の輪が広がっていったんですね。中村屋美術館ではなく、中村屋サロン美術館という名称の背景には、そんな経緯があったわけです。
美術館には荻原が国光をモデルにしたといわれる彫刻の名作「女」(1978年鋳造)をはじめ、高村光太郎、中村彝、柳敬助、萬鉄五郎、鶴田吾郎、布施信太郎、會津八一など、中村屋サロンゆかりのアーティストの作品が展示されています。
新宿のまん真ん中でこうして静かに美術を楽しめるスペースは貴重です。喧騒の中の息抜きに、ニッチタイムに訪ねたい美術館です。