「政治・スポーツ(野球)・宗教の話はするな」とは、巷間やBARなどパブリックな場において言われることです(最近はこれにワクチンも入ると思う)。
とりわけ政治の話をリアルですることは皆無。それ自体きな臭く、野暮で、失笑を買いかねないような印象が拭えません。
与野党の攻防は国民不在、自分のことしか考えていない人たちが当選している現実に失望しつつ、とはいえ今の政治には怒りの鉄槌を下したい。
そうした悶々とした思念があるなかで、『政治活動入門』(外山恒一著/百万年書房/2021年)は、鮮やかに「世の中の変え方」を提示してくれました。
『政治活動入門』内容
「外山恒一」と聞いてピンとくる人は、なかなかの政見放送ウォッチャーです。2007年の東京都知事選挙の政見放送でバズって以降、極左からアナキストを経て獄中でファシストに転じた活動が、たびたびクローズアップされます。
本書はその外山さんが、日本における政治活動とりわけ冷戦期以降の学生運動史をさらいながら、過去の活動家がどのようにして政治に一石を投じてきたのかを紹介します。
後半では5つの政治的イデオロギーである「アメリカニズム、共産主義、ファシズム、アナキズム、ナショナリズム」を解説。
アメリカ(をはじめとする西欧列強)の自由主義、旧ソによる共産主義の押し付ける普遍的正義を全否定し、何者の軍門にも下らないファシズムこそ、真の自由であると看破します。
これから政治活動を担う学生に向けての具体的かつ効果的なアクションをマニュアル的にひもとく巻末の「付記」まで、オソロしいほどの内容の詰め込みっぷり。
学生運動史をおさらいする現代史書であり、政治活動の実践的指南書でもあるのです。
入門書として格好のテキストであり、ここを起点に応用編、各論、深掘りする関連書籍に手を伸ばしていきたい読書も多いんじゃないかな。
なぜ手にしたのか? 読後感は?
ご多分に漏れず、あの政見放送以来の外山恒一フォロワーであり、ゆえに課題図書のひとつだったのです。
で、本書を読んで、外山さんが政見放送で咆哮した「どーせ選挙じゃ何も変わらないんだよー!」の真意を理解し、なぜあのような(一見過激な)主張をしたのかの疑問が一気に氷解しました。
かつて行われた自社さの連立政権樹立、自民党から民主党への政権交代後も「やっぱりダメか」と虚しさに襲われた記憶は今なお生々しい。
本書を読んで選挙というものに幻想や期待を持ちすぎていたのだなと脱力。もちろん今も期待は多少ある。
けれども根本から変えるには、外山さんが本の冒頭で結論から述べている通り、「若い知的なヒマ人たち」が立ち上がらないことには始まらないわけです。立ち上がるとはつまり、学生運動の復活です。
個人的な感慨
齢50を超えた自分には、仮に時間があったとしても、知性と若さの持ち合わせまではありません。
そんな中年ができることは、見どころのある有望な若者をささやかながら応援すること=お小遣いの幾許かを黙ってカンパすること、くらいです。
外山さんは自らの呼びかけで、学生有志に対して政治塾を開いており(しかも私費で!)、その卒業生たちがカウンターに立つ「BAR人民の敵」を東京・高円寺に開いています。
そこに集うような若い人を見るだけで捨てたもんじゃないぜ、とニヤリとするわけですが、未来の革命家を養成する外山さんには敬意を表します。
自分自身は退場あるのみだけど、せめてこの突き動かされる感情だけはいつまでも持っていたい。
日本史好きですが、本書に記された裏面史や思想史は押さえておかねばならぬことだらけで、気がつけば付箋だらけに。
繰り返し読むに値する、いい本と出会えました。
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