作り手の熱意・熱量、本気度合いって伝わっちゃうんです。
初回第1話と第2話を見て、それが迫る迫る(嬉)。
製作総指揮と第1話の演出を兼務したマイケル・マン節、控えめながら表れてましたね。
『TOKYO VICE』(WOWOWプライムで毎週日曜日放送、原題同)は、ジェイク・エーデルスタインさんの同名ノンフィクションを原作にしたクライムサスペンス。
1990年代の東京、日本の大手新聞社に入った新人記者ジェイク(アンセル・エルゴート)が、サツ回りから日本の裏社会=ヤクザの世界を取材していく物語です。
第一印象であり、最も嬉しかったのは、作り手が相当がんばってリサーチしているのがわかったこと。
向こうの映画監督が描く日本(と日本人)の多くは、ステロタイプなデフォルメがされていて、観ているこちらは「……(閉口)」となることが珍しくありません。
そんなことは意に介さず、連中は未だに「フジヤマ・サムライ・ゲイシャ・ニンジャ」という、偏見と古くさい価値観に覆われてます。
ヤツらの日本に対する感覚は、全然アップデートされてないし、する気もないんだよね。
そうすれば観客も喜ぶと思い込んでいる。
ところが、この連続ドラマは違った(少なくとも第1話は)。
何が違ったか。
冷徹でフラットな描写
あちらの製作者が解釈する特有の(小馬鹿にした)アジア感、日本感がない。
日本という異国・異文化で好奇心と職業意識で闘う主人公の米国人記者ジェイクが、必死に眼前の裏社会と向き合う。
記者も、デカも、そしてヤクザも、ジェイクと対等でありフラット(ときに圧力をかけながらではありますが)。
連続テレビドラマでは第1話の演出がその後の方向性を決定づけるだけに、冷徹に撤するマイケル・マンはさすがです。
演技で魅せる役者たち
主役から脇役まで、誰もが異様な緊張感をもって演じています。
ピンと張り詰めた糸のような。
口角泡を飛ばして大仰に「熱演」するという薄っぺらいな役づくりではなく、それぞれキャラクターを掘り下げているのがわかる。
デカ役の渡辺謙さん、伊藤英明さんはじめ、たとえば第1話冒頭で主人公に静かに圧をかけるヤクザ役の田邊和也さん、英語を流暢に話すやり手記者でありながらどこか影あるキャラの菊地凛子さんなど。
これまでのところマン得意のアクションはほぼありませんが、表層のインパクトではなく俳優が演技で勝負しているのも素晴らしい。
萩原聖人さん、菅田俊さん、山田純大さんなど日本の映画・ドラマ界でおなじみの俳優がチラッと顔を出しているのも楽しいですね(5月に急逝した渡辺裕之さんの姿も)。
大手紙の内部描写
主人公を「ガイジン!」と呼んで詰める社会部デスクを豊原功補さんが演じていますが、かつてはこういう中間管理職がフツーにいたんですよね、新聞社って(ちょっとバイトしてたんで分かるんです)。
自分の部屋をもっている描写には、てっきり局長くらいエラい立場の役かと。
最も驚かされたのは、主人公ジェイクが東京での学生生活を経て、新聞社の入社筆記試験から描いたこと。
役員面接のガラス越しに編集局が眺められるシチュエーションが「ありえない」のはご愛嬌でしたが。
彼の成り立ちが分かるように構成したJ・T・ロジャースさんの巧緻な脚本の賜物ですね。
リアルな東京
見覚えのある都心の風景が多数出てきて、しかも違和感ない。
あー、外国人が見たリアルな日本の視覚はこんな感じなんだろうな、と初めて(ほんとに初めて)納得がいきました。
映画文化に非協力的な日本そして東京で、よく撮ったなぁ。
十分な協力を得られず、結局は米国はじめ他国で撮影されることなどはこれまで当たり前ですから。
新幹線が登場する日本映画ですら、駅や電車を海外で撮影してる体たらくだもんね。
本作のロケーションマネージャーを務めたジャニス・ポーリーさんは、『ヒート』(1995)でマンから「まだ描かれていないLAを」との要求に応えた人で、その後もマンの理想とするリアルなランドスケープにひと役買っています。
ロケ場所として東京のどこが出てくるのか、期待大なのですよ。
製作決定の一報を聞いたとき、正直「テレビシリーズでなく映画で」と思ったのですが、複雑怪奇な裏社会と人間関係を描くなら、120分の尺では足らないな、と。
今後どういう展開になるのか、情報を遮断して毎週日曜日のファーストランを視聴するのが楽しみです。