これほど読み進めるのが苦しい小説はめったにお目にかかれない。
1942〜1943年の独ソ戦争を背景に、英国海軍巡洋艦乗組員の苦闘を描く『女王陛下のユリシーズ号』(H.M.S. ULYSSES / 1955 /アリステア・マクリーン 村上博基訳/ハヤカワ文庫)は、自分の置かれた平和な日常がいかに恵まれているかを認識させられます。
あらすじ
ドイツとの戦争で天王山を前に、援ソ物資を積んで北極海を行く連合軍輸送船団。その護送にあたる英国巡洋艦ユリシーズ号は、2度の航海ですでに満身創痍だった。だが、喀血しながらも艦橋に立つヴァレリー艦長以下、700人以上の乗組員に牙を向くのは極寒の海と暴風雨。なおも航進するユリシーズ号と船団を、独軍のUボートと爆撃機が襲いかかるーー。
なぜ手にしたのか? 読後感は?
ぼくが好きな話のはず、とのことで勧められていたから。
長年の積ん読であり、課題図書だったのです。
読後感はツラい、あまりにもつらすぎる物語です。
がしかし、過酷な環境と運命を受け入れ、立ち向かう英海軍勇者たちの不撓不屈の精神と心意気がわかります。
読んで得たこと
鋼鉄なる男たちと高潔なる艦長の心意気
いつ襲いかかってくるかわからぬ独軍に備え、常に総員配置で睡眠も食事もロクに取れない絶望的な状況。
過酷な自然下で幻覚を見る乗組員、次々に倒れる20歳前の若者たち。
独軍の作戦に負け船団を破滅に導き、正気を失う提督。
そんななかでも時に冗談を言いつつ、時に叱咤激励し、時に規律を破り、艦員たちの心の襞に入るヴァレリー艦長。
病が悪化するばかりの自分は常に後回し。男の中の男とは、ヴァレリーのことでしょう。その後を継ぎ、独軍と決戦する副長もまた、なんたる男っぷり。
いつの世も犠牲になるのは現場の人間
読んでいて思い出したのは、映画にもなった『八甲田山死の彷徨』(新田次郎/新潮文庫)です。
冬の青森県の八甲田山で雪中行軍を命ぜられた小隊が、準備不足と知識不足から遭難してしまい、参加210人のうち199人が死亡した大惨事を描いた作品。
史実がベースであり、極寒の地で格闘する軍人は、そのまま本作ユリシーズ号の男たちと被ります。
何よりも、上層部に振り回されるヴァレリー艦長は、『八甲田山』の神田大尉(北大路欣也)と山田少佐(三國連太郎)の関係とそっくり!
上が馬鹿だと現場が乱されるばかりでなく、命すら簡単に奪われる。
あゝ無情。
巡洋艦ユリシーズ号と男たちの描写
登場人物の悲惨さ、激浪の中を突き進むユリシーズ号の頑健さ。なかでも
- 海中に投げ出され漏れた油による火の海で、敬礼しながら焼死していく艦員たち
- 目的地コーラ湾を目前にして独軍の重巡に吹き飛ばされ(なおもエンジンは動いている)、「みずからの死刑執行人」となって、海の藻屑と消えていくユリシーズ号の最期
は強烈な印象を持って記憶にとどまります。
まとめ
これもまた一読忘れがたい本です。
過酷なストーリーですが、ユリシーズ号艦員が持ち込み禁止の酒=ラムを胃に流し込む場面は、束の間ホッとする場面。
何よりもユリシーズ号出発の地は、あのスキャパ湾(物語ではスカパ・フローと表記)。
スコッチウイスキーファンにはたまらないものがあります。
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