1995年発表、第41回江戸川乱歩賞と第114回直木賞をダブル受賞した『テロリストのパラソル』(藤原伊織/講談社文庫)を読みました。絵空事のハードボイルダーが跋扈する世界ではなく、隣りにいるかのような、でも一本筋が通っていて、骨のある男が主人公。こういう男をもっと見たいんだよな。
毎日を世捨て人のように暮らしているアル中のバーテン、島村(バーテンダーときちんと呼ぶよりも「バーテン」のほうがしっくりする)。新宿中央公園の爆弾事件に居合わせた島村は、不穏な出来事に巻き込まれる。事件を独自に追ううちに、島村は隠していた過去と向き合わざるを得なくなる。
あらすじは実にシンプル。だけど、島村と彼を取り巻くキャラクターが実に魅力的。根っからのヤクザになりきれないインテリヤクザの浅井、東大全共闘仲間の桑野、爆弾事件の犠牲になった元恋人の優子、勝ち気であり機転もきいている優子の娘・塔子……。
ネタバレになるから詳しく書けないけど、それぞれに抱えきれない過去を抱えていて、どうにか折り合いをつけながら生きている。言葉による会話、ちょっとした行動で噴出する葛藤。それらの描写、語彙表現の巧みさにやられました。
表現で言えば、歌舞伎町の描写も素晴らしい。あえて引用は避けますが、街の猥雑と混沌、マッドさとそれをつくる人種を表した文章は、繰り返し読み返したほど。
乱歩賞はフジテレビが単発2時間枠『金曜エンタテイメント』でドラマ化していて、主人公・島村を演じたのが萩原健一。
だいたいにおいて実写化は賛否両論ありますが、このリアルの置き換えは大正解。というか、ちょっとできすぎ。小説ではもう少し若くシュッとした人を想像したのだけど。
読まねば、を繰り返して25年以上。放置した自分に喝。藤原伊織さんの作品、やはり他も読みます。