世渡り上手くやるべく、承認を手っ取り早く勝ち取るべく、長くなりそうな話を打ち切るべく、われわれは会話や文章を日々駆使しています。
でも、それらの言葉や文節って、一皮剥くと誤魔化しや詭弁に満ちている。
『紋切型社会』(武田砂鉄/新潮文庫)は具体的な言葉を集めながら、それらに潜んだ本音本性本質を突いていく、著者の2015年のデビュー作です。
なぜ手にしたのか? 読後感は?
砂鉄さんは週刊誌や文芸誌、ファッション誌などで連載を抱えるライターであり、河出書房新社の元敏腕編集者。
ラジオDJとしても活躍中で、個人的に『KODANSHA presents 金曜開店 砂鉄堂書店』(TBS Podcast)をジョギング中に繰り返し聴いていまして。
でも著書を読んだことがなく、今回ようやく手に取りました。
砂鉄さんはラジオでは低音のイケボで飄々とした語り口ですが、ひとたび文章を書かせると切れ味が鋭い。
この本では皮肉とユーモアを巧みに混ぜつつも、マイルドで口当たりの良い上っ面に隠された言葉の腹黒さを容赦なくえぐり出します。
組織論の話から米日の関係をジャイアンとスネ夫の関係になぞらえ(決してのび太でないのがミソ)、「若い人は本当の貧しさを知らない」として戦争を経験したことだけをアドバンテージに説教するロートル。
この記事の冒頭に書いた「われわれ」という表現も、「国益を損なうものになる」と宰相がよく使うフレーズに散りばめて、いつの間にか個を消すものとして警鐘を鳴らします。
「うんうん、そうだそうだ」と読み進めていくのですが、これが痛快かというと全くそんなことはなく、むしろ居心地の悪ささえ覚えます。
なぜって、ぼく自身もこの手の言葉を使ってしまうことがあるから。
特に15章「”泣ける”と話題のバラード」では、コンテンツホルダーの言いなりに紹介文を書く、いわゆる御用メディアに対しての批判にグサっときました。
これは単なるプレスリリースであり批評ではない、ライターとして一緒にされたくない、と痛烈です。
ぼくもそういうメディアの末端にいた人間なので、読みながら背筋にひんやりとしたものが。
あと、中島義道さんの名著『うるさい日本の私』を思い出しましたね。これ再読したいな。
読んで得たこと
易きに流れる社会、それを形成する個人への警句。
こんなに耳障りなことをあえて言ってくれる人は、そうそういません。
首相はじめ政治家の使う言葉が軽くなったと批判しがちですが、自分はどうなんだ? と。
安直でドライな普段使いの言葉に、湿り気を持たせるには、自分自身で問題意識を潜在させていないと。
言葉の重みってやつを、足りない頭で考えた読書時間でした。
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