発売中のdancyu(2017年2月号)をパラパラめくっていたら、老舗のBAR「サンボア」の特集が組まれているではありませんか。思わず買ってしまいました。
京都に行った際に、どこで飲もうか悩んで真っ先に思い浮かぶのが、祇園サンボアです。
池波正太郎や山口瞳が通ったというだけで、扉を開けたいミーハー気質が高じ、2年前、初めて訪ねたのです。そのときの温かい雰囲気が忘れられません。
訪問した日は、正味3日しかない休暇の初日。夕方、これから発とうというときに、仕事で納品トラブルが発覚して出社する羽目に。何とか片づけ、やっとの思いで新幹線に飛び乗ったときは気分クサクサでした。
予約を入れて楽しみにしていた和食店にも遅刻し、どうにも消化不良。気持ちよく1日を終えたいと思いつつ、「せっかくなら知らない店に行こう、失敗しても初訪問なら諦めもつく」と、半ば開き直りの境地で訪ねたわけです。
振り返れば、当たり前ですが、杞憂でした。
暖簾をくぐって、時間が止まったような懐かしい雰囲気に顔がほころびます。クラシックな場所、雰囲気、大好きなのです。
マスターの中川立美さんは、ぼくのような一見の客を構えさせない紳士でした。長年の経験と、滲みでる気風。主張はないけど、安心感にも似た穏やかさを醸し出していました。
バックバーを見渡し、クライヌリッシユ14yをストレートで。すると中川さん、「オールドボトル、ありますよ。そちらお出ししましょか」と。
そこでゼヒと言えないのが悲しいところで、ぼくがうーんと逡巡したのを見た中川さん、「(通常のショットと値段は)同じですから、どうぞ」と。
そらあ、いただきましたよ。いやぁ、このときのクライヌリッシユは本当に美味しかった。仕事を脱出できた感もあって、癒されたのなんの。
「あ~、うまいなー」
「うまいですよねえ」
このやり取りでもう十分。ゆるゆる過ごした後、満足して宿に戻ったのでした。
昨年2016年9月。久しぶりに訪ねた際、その中川さんの姿はカウンターにありませんでした。不思議に思ってバーテンダーに尋ねると「1月に亡くなりました。私の父です」と。聞かれ慣れている感じがまた寂しく、二の句が継げません。
dancyuによると、その人、中川瑞貴さんは今、銀座の「スタア・バー」で修業中だそう。2018年のサンボア創業100年には、戻るのかな?
姿形を変えず、それでいて受け継がれていく伝統。いつまでもそこにあってほしいです。