入門と言いながら難解な内容の書籍は数多ありますが、ほんとにサクサク読めて内容が朧げながらもつかめる。
現代思想のみならず哲学のエントリーとして、楽しみながら読めるのが『現代思想入門』(千葉雅也、講談社現代新書)です。
著者によると現代思想の定義は1960〜90年代にフランスで深化したポスト構造主義のこと。
この時代に活躍し現在まで影響力を持つデリダ、ドゥルーズ(&ガタリ)、フーコーという3人の哲学者の考え方を繙きます。
たとえ話に納得
のっけから「脱構築」「秩序と逸脱」「二項対立」といった有名な概念を、身近な実例に置き換えて解説する新味に仰天しつつニヤリ。
だって例として、秩序が「コンプライアンス」、逸脱が「盗んだバイクで走り出す」ですぜ。読みながら笑いつつ膝を打ったのは言うまでもありません。
本書は3人の基軸をそれぞれ「概念の脱構築」「存在の脱構築」「社会の脱構築」としてセグメントします。
デリダにおけるパロール(話し言葉)とエクリチュール(書かれたもの)はコミュニケーションにおける誤解に照合できる。
ドゥルーズ+ガタリが定義したリゾーム(横展開する多方面的な関係性)は旧来の秩序を脱構築し、皆が発信できるネット社会を構築したものの監視社会も同時に進化した。
権力を分析したフーコーは単に権力者と被支配者に分割するのではなく、被支配者も実は「支配されることを積極的に望んでしまう」ことを白日のもとに晒したと紹介する。
本書は哲学者が放つ言葉の真意を噛み砕いて読み手の前に差し出します。それは必ずしもすべての人が飲み込めるもの(思想)ではないかもしれないけど、多様性が謳われる現代に共鳴される点はあるはずです。
羅針盤として
特に本書のラスト、第7章P213〜214で結局生きるとは何なのか、生きていくとはどういうことなのかをサラリと説いてくれ、スカッとストンと胸に落ちます。
哲学書の読み方指南本として気軽に読めるだけでなく、これらが生きる羅針盤たりうることを教えてくれる今の自分に必要な本でした。
出会いってのは、人だけでなく本も当てはまるなぁ。
自分に今ちょっとした変化が起きているなか、他方現状では仕事においてクズの相手をせざるを得ず、毎日がワンダーランド。
そんな状態ながらも「肩肘張りなさんな」と言ってくれているかのよう。哲学書は読解が一筋縄で行かないから、その真意にたどり着くのが難しいものだけど、本書からは霧の中に明滅する灯台の灯火のような希望を抱かせてもくれます。
千葉さんによる哲学書ブックガイドも親切。どれから手に取ろうかな。本書はそんな水先案内でもあります。
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ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論 (星海社新書) [ 千葉 雅也 ] 価格:1210円 |