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【SF】コニー・ウィリス『空襲警報』:終末、タイムトラベル……シリアス好編詰め合わせ

『空襲警報』コニー・ウィリス

SF摂取不足の身としてコニー・ウィリス(Connie Willis/1945-)の代表作のひとつ『航路』が課題図書になっているのですが、その前に手に取ったのが同氏の『空襲警報 ザ・ベスト・オブ・コニー・ウィリス』(ハヤカワ文庫、大森望訳)。
第二次大戦のロンドン大空襲の時代にタイムトリップした「ぼく」がセント・ポール大聖堂で焼夷弾火災の監視を担う表題作など全5作を収録した短編集です。
以下主観交えて簡単に紹介します。

『クリアリー家からの手紙』(A Letter from the Clearys/初出:1982)

ロッキー山脈のパイクスピークの近い山間部の田舎町。語り手の14歳の少女は両親と兄、犬と暮らしていたが、ある一通の手紙を郵便局の私書箱から見つけたことで平穏な日常が破られる。

人気のない街、治らない火傷、テロリストの犯罪を主張するパパ。それらの会話の断片から終末期の世界と朧げにわかる図式に戦慄を覚えます。はっきりとしない描写の不穏さと、手紙の謎が解けたときのやりきれなさがいっぺんに。

『空襲警報』(Fire Watch/初出:1982)

時代遡行技術が発展した2050年代、オックスフォート大史学部の大学院生たちは現地調査のためタイムトンネルで過去に送られる。「ぼく」はコンピュータ入力ミスで1940年のザ・ブリッツ(ナチスドイツによるロンドン空襲)下に投げ出され、そこで焼夷弾と戦うはめに。

戦時の現地で悪戦苦闘する主人公は生還できるのか(往復切符のタイムトリップのはずが、二度と帰還できないタイムスリップになってしまうのか)が焦点でもあるのだけど、当時生きた人々を目に耳に焼きつけることが最も崇高なのだと気付かされる。

『マーブル・アーチの風』(The Winds of Marble Arch/初出:1999)

舞台は現代。妻を連れてロンドンを訪ねた中年の男が、チューブ(地下鉄)で奇妙な風を受ける。自分以外の周囲は感じていない様子の風の正体をつかもうと、男は駅という駅を移動して調べる。
理屈で説明できない出来事に遭遇した瞬間を再現したような不思議な話。

『ナイルに死す』(Death on the Nile/初出:1993)

欧州からアフリカを巡る旅に出た3組の夫婦。航空機でエジプトに到着後、夫婦たちは別行動に。機内から不可思議な出来事が起き始めた旅は、その後訪ねたピラミッド内部で極まり……。
得体の知れなさ、不気味さ、正体不明の何か。そうしたものこそ最も怖いというウィリスの巻末あとがきに納得。

『最後のウィネベーゴ』(The Last of the Winnebagos/初出:1988)

「ウィネベーゴ」とはキャンピングカー(というかモーターホーム)の1種。人も動物もまばらになった近未来の米国を舞台に、主人公のフォトジャーナリストがウィネベーゴのオーナー夫婦への取材前後の物語を紡いでいく。

ヒューゴー賞、ネビュラ賞など5冠に輝く傑作SFだそうですが、本短編集で個人的に最も困惑した1作。回想と物語のリアルタイムが混在し、疫病みたいなものも出てくるなど、何が焦点かつかみづらく難儀しました。
SF慣れしている人が読むと感動作なんでしょうね。

まとめ

『空襲警報』とクリスティの同名小説にオマージュを捧げた『ナイルに死す』が読みやすかった。
『クリアリー家からの手紙』『最後のウィネベーゴ』は、後半に差し掛かってそれが終末SFとようやく判別。これはこれで味ですが、野暮を承知で終末SFの傑作中の傑作である『渚にて』とどうしても比較してしまう。

全編シリアスな作風は好みとマッチしており、特に『空襲警報』は絵ヅラが想像できるようなほど。関連作品である『ブラックアウト』『オール・クリア』も課題図書として積ん読します。

しかし本作で最も心に響いたのが、著者が本作のために書き下ろした5作品のあとがき、および特別付録のワールドコン=世界SF大会ゲスト・オブ・オナー(主賓)スピーチとグランドマスター賞受賞スピーチです。
後者のスピーチは読書家の卵たちの道標にもなる素晴らしい内容で、グランドマスター賞のほうは予備原稿まで公開してくれるサービスぶり。
これだけでも読む価値があったと感じ入っています。

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hiroki「酒と共感の日々」

hiroki

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