1983年の日本冒険小説協会の大賞受賞作にして、北方ハードボイルド小説の最高峰ともいわれる『檻』(北方謙三著/集英社文庫/1987年第1刷)。
フツーに生きているテイでいるが、その枠に収まることができず、本性をむき出しにしていく男の物語です。
北方さんの初期の代名詞的作品といえるほど人気も評価も高い理由は、読めば納得です。
男は好きな話でしょ、こういうの。
『檻』あらすじ
元やくざの滝野和也は、今は結婚し世田谷でスーパーと喫茶店を営んでいる。順風満帆の生活を送っていたが、ここ最近、冷凍庫に鼠の死骸を置かれたり、牛乳パックに異物を混入されたりなどの嫌がらせに遭っていた。
店で騒ぎを起こしたチンピラをシメた滝野は、その背後関係を探るうち、奥底に閉じ込めていた感情をよみがえらせる。
なじみのホステス・暁美をヒモから強引に引き離し、昔の仲間で今はキャバレーを経営する高安に彼女を預けた滝野。あるヤマを踏もうとしている高安に、滝野は自分が一枚かむよう仕向けていく。
そんな滝野を老刑事・高樹がマークし始める。
なぜ手にしたのか? 読後感は?
たまたまYouTubeで北方さんのインタビューを視聴して、そこで紹介されていたのです。
ひとことでいえば、足を洗ったはずの元やくざが結局は修羅場に戻る話で、こういうストーリーが大好物でして。
結末は目に見えているけど、ハラハラドキドキしながら、でも読み進めすぎないよう一章一章かみしめるように読了しました。
北方さんは上の動画で、本作の映像化の話を高倉健、菅原文太、仲代達矢、萩原健一、松田優作の各氏が持ち掛けてきたと述懐していますが、それは誰が演じても見たかったなあ。
己の意の向くままに本来の野性を解き放つ滝野という男。
そんな男の前に立ちはだかる老練なデカ。アウトローとデカ、この組み合わせはハードボイルドの王道であり、筋書きまでなぜか既視感がありあり。
映画『ヒート』(1995 / マイケル・マン監督)しかり、白川道の小説『海は涸いていた』(1998 / 新潮文庫)しかり。
ただの犯罪者と片付けられないどころか、肩入れしたくなる魅力があるのは、己を気持ちいいほど貫徹しているからなのは明白。
男が好きな話の王道ですね。
まとめ
北方さんといえば、個人的にはホットドッグプレス時代の『試みの地平線』から入った身でして、エッセイばかりかじっています。
ハードボイルド小説はあんまし読んだことがなくて、ハードボイルド好きの風上にも置けませんな、我ながら。
まだまだ物足りないぜ、とばかりに、遅まきながら初期の小説からたどっていくつもりです。