本好きでしかも古本好きなら堪らない物語です。
古書が題材との前情報以外は予備知識なかったのですが、正解でした。
目利きと暗黙のルールが跋扈する古書界で、知識と眼識を兼ね備えたふたりの若者男性を描いた『月魚』(三浦しをん、2001年初版、角川文庫)です。
以下ネタバレなしで。
『月魚』あらすじ
古書店『無窮堂』を営む本田真志喜とその旧友で古本の卸を専門とする瀬名垣太一。ふたりは卓越した鑑識眼と知識で古書界から一目置かれていた。
瀬名垣はM県山奥の岩沼家からの買い取り依頼に、助っ人として真志喜を連れていく。蔵書は演劇関係・郷土史・文学などしめて3,500冊。だが依頼人の親族は東京からやって来た20代半ばのふたりをあからさまに見下し、地元の古書店との競りを提案する。
横軸でも読者をワシづかみ
真志喜と瀬名垣のバックボーンも練られており、展開が上手い。かつて瀬名垣の父親は古書の転売「せどり」の儲けのみで息子を養い、その眼力を真志喜の祖父に認められた経緯が。
親子は『無窮堂』に出入りするようになり、幼い真志喜と瀬名垣も仲よくなるが、瀬名垣の眼力と天性の勘のよさが仇となる事件が起こる。この過去の事件が後々までふたりの関係性に影を落とします。
古本界では掟破りの競りの行方、頑なに小売店を持とうとしない瀬名垣、真志喜の家族関係。これらが鮮やかに帰結する見事な終幕にもやられました。
巧みなキャラ設定と関係性、多彩な表現
勘の鋭い人はおわかりでしょう。本作は古本をめぐる愛憎とともに、真志喜と瀬名垣のBLでもあります。
とはいえそこは三浦しをん、必要最小限でふたりの内面と滲み出る外面を表現します。
一文の中に込められたふたりの濃密な感情と語彙の美しさ。姿を現さない真志喜の家の池に泳ぐ魚、こぼれそうな月の輝きといったメタファーも効いています。
なぜ手にしたか? 読後感は?
古本が題材と聞けば食指が動かぬはずもなく。
BLと気づかされたときは一瞬閉口しましたが、興味関心のないワシでもページを繰る手が止まらず、危うく電車で乗り越しそうになったほど。
読後も素晴らしく、同じ登場人物が出てくる後半の2編もぜひ。
これシリーズにならなかったどころか文庫も絶版とか。もったいない。続きものにすればいいのに。
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