演劇でもリーディングでもない、舞台上で展開されるのはズバリ台本読み。
作家・演出家・俳優の岩井秀人さんがプロデュースする『いきなり本読み!』を初観覧してきました。
満員の会場のお客さんは爆笑に次ぐ爆笑で、人気企画を実感。いやぁ、たしかに面白い。
この企画は上演台本を俳優が本番のステージ上で初めて開くというシバリで、「本読み」と呼ばれる稽古場での台本読み合わせの過程を観客に見せちゃおうという趣向です。
当然ながらキャストも1公演限りの顔合わせ。戯曲はすでに完成・上演されていますが、ここに出演する俳優は初見の台本なわけで、ぶっつけ本番による読み解きもまた見もの。
今回観たのは劇団イキウメの前川知大さんをゲストに迎えた特別企画『いきなり本読み!?with 作家さん』で、ステージ左から岩井さん、前川さん、俳優3人(後藤剛範さん、小飯塚貴世江さん、板垣雄亮さん)がミーティングチェアに座って本を読み進めていくスタイルです。
背景には台本のテキストがそのまま投影され、台詞を3人の俳優が、ト書きを岩井さんが担当します。
ただ台本を機械的に読み進めていくのではなく、俳優が台詞を話している途中でも岩井さんが止めたり、戻ったり、ツッコミを入れたり、ダメ出ししたりしながら進行します。
今回の上演作品は、映画化もされた前川さんの代表作のひとつ『散歩する侵略者』。
この企画には難易度が高そうですが、すでに何度も上演歴があるとか(!)
物語は倦怠期の夫婦を中心に展開。
急に優しくなった夫に困惑する妻は、毎日散歩に出るようになった夫の行動に不信感を抱く。
同じころ発生した一家惨殺事件を機に、町内で続発する不可解な現象。
ある日、夫は妻に「地球を侵略しに来た」と告げて――。こんなあらすじです。
前川さんならではのSFスリラーであり、そこから人間の持つ「概念」の消失へと展開する悲劇でもあり。
上演時間の都合上、ラジオドラマ用に尺を短くしたバージョンで行われた「本読み」は、舞台上も観客も笑いの連続。
俳優は複数の役を演じ分ける難しさもあり、声の大小、声音の強弱、感情の起伏、イントネーションに至るまで、岩井さんの細かい指摘で役をつかんでいきます。
クライマックスのカタルシス的場面、俳優がまさかの台詞読み間違えで、劇場は静寂から一転爆笑に。
なるほど、この先読みできないライブが魅力でもあるのだなと実感。
演劇の創作過程ってジャンルを問わずこうなんでしょうね。
別に悲劇だからって、稽古場まで始終お涙頂戴なわけではないのです。
前川さんは始終伏し目がちで、岩井さんの問いに対し、自分の作品を目の前で上演されることのとまどいと気恥ずかしさを打ち明けていました。
「俳優がときどき台詞を間違えることで、意識がそちらに向けられてホッとする」という旨を話したのは、実感がこもっていました。
2025年10月6日19時開演 ザ・スズナリ