宝塚歌劇星組の東京公演『GOD OF STARS-食聖-』『Eclair Brillant(エクレール ブリアン)』を観てきました(2019年9月17日ソワレ)。トップスター、紅ゆずるさんと娘役トップスター・綺咲愛里さんの退団公演です。
『食聖』は腕は確かだが傲慢な天才料理人ホン(紅)が屋台を切り盛りする娘アイリーン(綺咲)と出会い、真の料理人として成長するストーリー。香港映画の大ファンだという演出の小柳奈穂子さんならではのハートウォーミングなコメディ。随所に見られる香港映画のエッセンス、かつてフジテレビ系で放送されていた『料理の鉄人』を彷彿させる場面などで、思わずニヤリとさせられます。
クライマックス、礼真琴さん扮するライバルのロンロンとの満漢全席対決。高級食材を揃えて迎え撃つロンロンに対し、ホンはどういう食材、作戦で対抗するのか。この結末に「うまいなぁ、そう来たか」と。礼さんのロンロンに「星はおまえにくれてやらぁ」というホンのセリフ、グッとくるではありませんか。紅さん流の申し送りと解釈しましたよ。
『Eclair Brillant(エクレール ブリアン)』は退団公演に見られがちなお仕着せ感が全くない、抑制がきいたショーで素晴らしかった。「ボレロ」を使った長尺の総踊りは息をのむような集中力と美しさが。大河ドラマ『風林火山』のテーマ曲を三味線アレンジにして、大階段で使ったのにも驚かされました。
退団する如月蓮さん、麻央侑希さんにシナトラの「That’s Life」を歌わせるくだりはクールだし、送り出し方として最高だと思います。ふたりを囲むようにロケットになだれ込む演出もうまいなぁ。
ロマンチックな演出の酒井澄夫さんによる意表を突く、オールドスタイルでありながらクリエイティブな趣向が冴えていました。紅さんのキャラクターゆえか、最後だからといって湿っぽくさせない。けれどもこれがラストだとファンにはわかる。そういうショーです。ほんとうに想像以上にトーン抑え目で、それがかえって感動を増幅させてくれます。
花組から星組に組替えで来た舞空瞳さんと礼さんが組むダンスのシーンは、さながら次期トップスター就任前の予行演習ですね。初めて舞空さんを見ましたが、歌もダンスも抜群。そのかわいらしいルックスも相まって、礼さんとのコンビが楽しみとしか言いようがありません。
「隅から隅まで全員見てほしい」というメッセージを述べた紅さんの希望が反映されたかのような、全員に目が行き届くものでした。芝居も、ショーも。これがラストなんて残念でならない。なんとか、もう1回くらい劇場に行けたらうれしいですね。