アガサ・クリスティの同名戯曲を日本人スタッフとキャストで舞台化した『THE MOUSETRAP(マウストラップ)』(2025年9月19日~9月28日)を観劇。
洋館の1室を舞台にしたワンシチュエーションのミステリーです。
突飛な演出もなくシンプルに徹した推理劇は、戯曲と役者の演技だけで勝負といった潔さを感じます。
で、これがよかった。楽しめた。そして犯人は当てられなかった。
舞台は新婚のロルストン夫妻が開業したばかりのオーベルジュ風のホテル、マンクスウェル山荘。最初の客を迎えるその日、大吹雪のなかを予約客4名が宿にたどり着く。
さらに車のスリップで助けを求めてきた外国人風の男性を夫妻は急きょ迎え入れる。
翌日、雪のため外界から閉ざされた山荘に、ロンドン市警から刑事を差し向けるとの電話が。ほどなくスキーを履いたトロッター刑事が現れる。
ロンドンで起きた殺人事件を捜査中のトロッターは、この山荘に手がかりがあるとにらみ、犯人が宿泊客に危害を加える恐れがあると一同に話す。
トロッターの警告も虚しく宿泊客のひとり、ボイル夫人が何者かに殺害されて――という筋書き。
登場人物全員が容疑者となる展開はクリスティあるあるで、鑑賞しながら犯人探しに挑んだものの、犯人はまさかの人物で結局当てられず。
最も疑いのなさそうな人を怪しむべきだと頭でわかっていても見抜けないものです。
容疑者にひとりである宿泊客ミス・ケースウェルを演じる紅ゆずるさんがハマり役。
声が低い男装の麗人といった出で立ちで、つかみどころのないミステリアスな演技が光っていました。
宝塚退団後初めて姿を見ましたが、全然雰囲気が変わってない。スーツの立ち姿が哀愁を帯びたキャラクターにぴったり。
退団後に一気にレディーに転換する男役さんが大半ですが、紅さんのように男役を引きずらず、かつマニッシュな美人路線もいいかも。
アフタートークでは登壇したひとり、金子隼也さんが「結末は言わないで」と観客に声をかける場面も。
確かに知らないで観るほうが本作は圧倒的に楽しめますので、これ以上は触れません。
本作は演劇史上において世界最長のロングラン記録を誇る(ロンドンのウエストエンド)そうで、誰もが楽しめる正統派のストレートプレイでもあるのでしょう。
ちなみに企画制作の演出家・野坂実さん(ノサカラボ)は、世界の名作ミステリーを舞台にしているそうで本作もそのひとつ。
演劇の魅力と間口をさらに広げる試み、いいですね。次回作以降も注目します。
2025年9月23日18時開演 博品館劇場
