「結末は決して他言しないでください」とチラシ裏面に記載されているとおり、また実際にこの手の作品は情報を事前に入れないに越したことはないので、これから鑑賞予定の方にはブラウザバックをおすすめします。
「天国と地獄をつなぐ橋」を意味する『シラート』(2025年スペイン・フランス / Sirāt)は、カンヌ映画祭の審査員特別賞ほか賞レースを賑わせている作品です。
公開5日目に観た鑑賞後感を、以下ネタバレで。
『シラート』あらすじ
広大な砂漠のレイブパーティにやってきた男ルイス(セルジ・ロペス)とその幼い息子エステバン(ブルーノ・ヌニェス・アルホナ、かわいい子役!)、それに飼い犬。男は失跡した娘を探すため、参加者たちに聞き込みを行う。
宴が盛り上がるなか、会場に軍隊が突如なだれ込み、その場でパーティを強制終了させる。
理由もわからないまま、軍に監視されながら各々自分の車で撤収する参加者たち。
やがてパーティの参加者の1グループが監視のスキを突いて別ルートに逃走、ルイス親子も咄嗟に後を追う。
軍から逃れ、次のレイブパーティの場所へと砂漠を疾走する一行たち。
だがそれはこれから始まる地獄への入口に過ぎなかったーー。
『シラート』ここからネタバレ
まぁ、ひでえ。悲惨な話ですわ。
鑑賞中に『恐怖の報酬』(’53年)を、鑑賞後に『ハート・ロッカー』(’08年)をそれぞれ想起させる映画でした。
要するにドキュメンタリータッチで、しかも実際に起きていることに巻き込まれるような錯覚に陥るわけです。
起きていること、とは。
しつこく後を尾けてくるルイスに、悪路がこの先続くから引き返すよう勧めるグループのメンバーたち。
頑丈にカスタマイズしたキャンピングカー仕様のグループの車に対し、ルイスの車はノーマルのファミリーカー。
が、もう来てしまった手前、ルイスは引き下がれません。
タトゥーはほぼ全員で、右手首を失っている男、義足の男など格好こそ奇抜だが心優しいグループの男女たち。
食料やガソリンを分け合うなどして、ルイス親子とグループのメンバーは徐々に打ち解けていきます。
軍に見つからぬよう谷側のルートを避け、目が眩むような断崖絶壁の道を進む一行。
ここから悲劇が起こり始めます。
一団のワゴンのタイヤが凹凸にはまり、ジャッキアップなどでなんとか抜け出した直後、サイドブレーキが緩んだルイスの車が谷底に墜落。
車内にいたエステバンと犬を亡くし、半狂乱になるルイス。
レイブパーティの会場を求めて疾走する途中(会場はモーリタニアにあるらしいとする台詞あり)廃車からガソリンを失敬しつつ、近くにいた牛飼いの少年に助けを求めるも、無視されて途方に暮れる一行。
砂漠の中に車を停めた一行は、大型スピーカー2台を地上に設置。音楽を流して踊り出す。
そのときーーメンバーの数人が突如爆死してしまうーー停車した砂漠は地雷原だったのだ。
安全な岩の上までの距離、目測で約90メートルか80メートルか。
一行はつっかえ棒でアクセルを切った無人の車でルートを試すが、2台とも地雷にかかり爆発炎上。
意を決したルイスが単独で歩いて移動し、無事に岩の上にたどり着く。が、その後を追った男が地雷で爆死。
残るふたりがルイスのいる位置まで抜き足差し足で歩き抜く。
3人と難民(?)を満載にした列車が線路を疾走する場面で幕となります。
不条理に満ちた世界を活写したかったのか
いかにもリアリティある映像と脚本で、リアルなーー現実に起きている不条理な世界ーーを見せられても、つらさしかありません。
リアリティのある映画で、現実に起きそうな、でも世界はこうあってほしい。
そのように作り手のある種の願望が創造された映画や小説が個人的には好みです。
本作『シラート』は人間の愚かな行動、一寸先は闇、何も悪いことをしていなくても命が失われるアクシデント。
そのような不条理をこれでもかと突きつけてきます。
結局は娘も見つかりません。
娘がどうなったか? それはメンバーがルイスの聞こえない外でヒソヒソ話で「誰が言うんだ」「おれは言えない」などのやり取りをしていることから察せられます。
グループメンバーのほとんどを唐突に、しかも立て続けに死なせる。ましてや子どももあっけなく墜落死させる。
映画でも小説でも私はキャラクターに愛情を持った作り手の作品が好きなので、本作にはため息しか出ませんでした。
もちろん光る部分は多数ある
特に後半に描かれる不条理な世界にはうんざりしましたが、映像の美しさは強烈でした。
砂煙を上げて灼熱の砂漠を突き進む3台の車、月光が道なき道を照らす夜のドライブ、雨風の見通しの悪さ。
アシッドやサイケデリックトランスのような重低音の音楽が、一行の行先知れずの旅を盛り上げます。
中盤の今にも車輪を踏み外しそうな断崖絶壁の場面は『恐怖の報酬』だし、クライマックスの得体の知れない爆弾は『ハート・ロッカー』を彷彿させます。
なによりも広大な砂漠を俯瞰した、文字通り乾いた映像にはもう不安しかない。
本作はPG-12のレーティングが付いているし、前半の軍の描写でなんとなく予想していたのですが、予想を裏切らずに地雷原という地獄の登場に苦笑してしまった。
レイブパーティの場面と娘探しのシークエンスが連なる前半はさほどアクション(行動)は少ないのですが、中盤、砂漠地帯を駆け抜ける車を俯瞰しながらタイトルをドーンと出すあたりは「おぉっ」と。
スペイン出身の新鋭、オリベル・ラシェ監督の類稀なるセンスを感じます。
『シラート』リピはない
クライマックスの怒涛の展開ゆえに話題なのでしょうけど、ちょっと評判が克ちすぎでは。
本作を人に勧めるかといえば勧めないし、仮にもう1回タダで観られるとしても行きません。
とにかく消耗、ぐったりしながら劇場を後にする体験はあまりしたくないので。
2026年6月9日 丸の内ピカデリー Dolby Cinema
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