劇団四季の『恋におちたシェイクスピア』を観ました(2018年7月16日、マチネ)。こういうロマンチックな話はたまらん。ベースは1998年の同名米映画(Shakespeare in Love)で、第71回アカデミー賞作品賞、脚本賞、主演女優賞、助演女優賞、音楽賞など7部門を獲得したラブストーリーです。
エリザベス一世の時代。劇作家シェイクスピアの新作オーディションにトマス・ケントと名乗る青年がやってくる。実はトマスの真の姿は資産家の娘ヴァイオラ。女性が舞台に立つことが公序良俗に反するとされていた時代、演劇を愛する彼女が男装してやって来たのだ。やがてトマスがヴァイオラであると知ったシェイクスピア。2人は激しい恋に落ちるが、ケントが女性であることが公になってしまい……というストーリー。
この新作というのが『ロミオとジュリエット』なのだから心憎い。他にも『シラノ・ド・ベルジュラック』とか『十二夜』とか、実際の戯曲が多数モチーフにされているので、芝居好きは堪えられないはず。
人力の盆回しで見せる装置もナイスアイデアで、俳優=バックステージから見た景色と、観客=本番の風景を代わる代わる見せる工夫がスリリングでもあり可笑しくもあり。四季の自由劇場で見る我々観客は、ロミジュリが実際にこうして生まれたのではと錯覚させるくらいの説得力があります。
東宝の『レディ・ベス』(こちらもエリザベス一世)もそうですが。歴史上の人物に、現代に生きる作家がロマンチックなフィクションを想像し付与する作品性、たまらなく素敵です。「ほんとうにこうだったら」と夢想してしまいます。
もうひとつ、イノベーションの物語としても面白いです。女性が演じ手として舞台に上がることができなかった封建社会。今ではありえない話ですが、本作のシェイクスピアは結果的とはいえ、その禁を破ったリスクテイカーとなりました。いつの時代も新しいものを創造して未来につなげる人はいるのだと。そういう側面でも感じ入る作品です。
木で表現するセットは、どこか隈研吾さんの建築を彷彿させるもの。2階建てで高低を使ってロミオとジュリエット、そしてシェイクスピアとヴァイオラの身分違いの恋愛を描く暗喩もうまい。ヴァイオラが新大陸で力強く歩を進めるところで終わる映画と違い、演劇ではどうまとめるのだろうと思いましたが、着地のさせ方も見事でした。
上川一哉さんのシェイクスピアはどこかマッチョで、山本紗衣さんの丸顔ヴァイオラも個人的には好み。一番印象に残ったのは劇作家マーロウを演じた田邊真也さんで、シェイクスピアのライバルであり友情といったパートで物語に厚みが加わりました。
翻訳は松岡和子さん、演出は外部の青木豪さん。8月26日まで東京・自由劇場で。その後、京都劇場、再び東京、博多で上演されます。