四季の『恋におちたシェイクスピア』を観た足で、世田谷パブリックシアターへ。『マクガワン・トリロジー』も海外の戯曲の日本初演で、主演は松坂桃李さん。映画にテレビドラマに、舞台。見ない日はないといえるくらい大活躍ですね。
ニューヨークを拠点に活動する、アイルランド・ゴールウェイ出身の作家シェーマス・スキャンロンさんの戯曲を浦部千鶴さんが翻訳。演出は2018年9月から新国立劇場の芸術監督に就任する小川絵梨子さんです。
このポスター写真で表されているように、ひとことで言えば暴力と殺戮の物語。物語は前半に1部、15分の休憩を挟んで後半に2部の計3部(=トリロジー)という珍しい構成です。
舞台は1980年代、北アイルランド紛争が深刻化していたころのアイルランド。松坂さん演じる主人公ヴィクター・M・マクガワンはIRA(アイルランド共和軍)の闘士で、3部を通してヴィクターの物語が展開します。IRAアジトである酒場での仲間とのやり取りが、次第に狂気を帯びた尋問へと変わっていく第一部。瀕死のイギリス兵に水を与えただけで、かつて思いを寄せた女を処刑するか否かで葛藤する第二部。反社会的な人格になったヴィクターの背景が、病に伏す母親と彼の対話で明らかになる第三部。
第一部から第三部に進むほど遡るように見えるのですが。いちばん暴力的な第一部(4人の登場人物)から、第二部と第三部は一転、二人芝居による静かな緊張が支配します。松坂さんは出だしから異様なテンションの芝居を要求され、第2部以降は張り詰めた空気での演技に。
松坂さんは集中力と引き出し、バランスが問われる難しい役どころですが、安定感も見事でした。観客の8割は女性で、その大半が松坂さん目当ての女性だったのではと推察。演技派という言葉が簡単に使われる昨今ですが、松坂さんは本当の意味でそう言われていいのでは。共演の役者では第二部で女を演じた趣里さん(顔が小さい!)が特に光っていました。
非常に暗い話の連鎖ではありますが、それだけで終わらない。人の人生を左右するほどの国の情勢、任務=殺人、戦争に駆り立てる若者の葛藤。IRA紛争は昔の話ではなく、世界で今起きているテロだって決して無関係ではありません。考えさせられる物語でした。
それにしても本作のスキャンロンさんといい、アイルランドの作家が急に脚光を浴びるようになりましたね。パルコ劇場『海をゆく者』(衝動的で寓話的で内省的で、救いがある素晴らしい作品! 残念ながらソフト化されず)のコナー・マクファーソン、第90回アカデミー賞の話題をさらった『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナーなどほんの一部でしょう。
人間を描く作り手の人材が、それだけ少なくなっている証か。いや少なくなっているのではなくて見つけられないだけかもしれませんが。複雑で歴史の禍根の深いアイルランドが出身の作家だけが描けるストーリーは、普遍的で心に突き刺さるのでしょうね。