三谷幸喜作・演出の舞台『江戸は燃えているか』を観てきました(~2018年3月26日、新橋演舞場)。「江戸無血開城」を実現させた勝海舟と西郷隆盛の会談。だが、もし二人のどちらかがニセ者だったら。勝海舟を中村獅童が、ニセ勝に仕立て上げられる庭師・平次を松岡昌宏が演じます。
タイトルはパリ解放を描いたルネ・クレマン監督の映画『パリは燃えているか』のパロディですね。タイトルの英語版「Touch and Go」は一触即発の意味だそうで、どちらもなるほどうまいなぁ。
幕府代表の勝海舟は、新政府軍との交渉決裂となれば江戸市中に火を放って対抗するという策を講じる強気節。江戸を戦火から守るため、長女ゆめ(松岡茉優)が一計を案じ、平次を勝海舟に無理やり仕立て上げ、西郷と会談させるというストーリー。
本物と偽物、虚と実、ノンフィクションとフィクション。この辺りをミックスさせ、物語をあらぬ方向に転がしていき、ハラハラドキドキ爆笑の渦に巻き込むのは三谷さんの朝飯前。描く勝海舟はどうにも意気地なしで、女好き。家族や使用人によって遠ざけられては現れ、会談を混乱に陥れるという役を獅童サンが好演しています。
13人のキャストという群像劇。「あて書き」の三谷さんは自身の好むキャストで座を組みますが(ファミリーってやつですね)、中村獅童、松岡昌宏、藤本隆宏、八木亜希子を除いてほかの出演者はすべて三谷作品初参加。「今回は新鮮な空気の中で作ってみたいと思っていたので、あえて初めての方たちで固めてみたんですね」(パンフレットより)という三谷さんのねらいは当たりだったようです。
高田聖子、妃海風、藤本隆宏といった舞台派&松岡茉優、八木亜希子、磯山さやかといった映像派がいいバランス。飯尾和樹は声が良く独特の存在感で、コメディ派の石井和則(『古畑任三郎』でおなじみ)を思い出しました。こういう脇で光る人が、三谷さんは好みですよね。
俳優の演技も安定しているし、安心感をもって見られた舞台でした。惜しむらくは「これさえなければ完璧だった」という結末。なぜ蛇足のようなことをしてしまったのか。笑いに満ちてはいるけど、徹しきれてはいない。そこにもやもやが残ります。
とはいえ、最近の三谷さんのコメディでは抜群の完成度。三谷さんのヒットの泉はいつまで湧き出るのか、これからも楽しみです。