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【ネタバレあり】舞台『無駄な抵抗』、人生の選択と救済の物語。

世田谷パブリックシアター×イキウメ『無駄な抵抗』

(興味ある人は観てから以下を読んでね)
世田谷パブリックシアター×前川知大5回目の公演となる『無駄な抵抗』を観てきました(2023年11月18日14時)。

ギリシャ悲劇『オイディプス王』をモチーフに、運命に抗い、決然と自らの意志を示して行動に移す人の物語。
『オイディプス王』を知る人には、「なんだ近親相姦の話か」とわかってしまうかもですが、鬼才・前川さんは単なるトレースで終わらせません。

あらすじ

半年前から電車が通過する無人駅となった街、駅前の広場は活気を失っていた。元占い師でカウンセラーとしてこの街に戻ってきた二階堂桜(松雪泰子)の前に、同級生の山鳥芽衣(池谷のぶえ)が現れる。芽衣は、かつて桜に言われた「人を殺す」という言葉によって、自分の人生がとらわれてしまったと呪詛の言葉を投げつける。

ふたりの対話によって、芽衣の人間関係の履歴が徐々に符合していく。幼いころDVを母にふるった父の態度、人望あつい教育者だった叔父との関係。今は時折せん妄に陥ることがある叔父は、なぜか今になって探偵の佐久間一郎(安井順平)を雇い芽衣を監視。芽衣の兄・山鳥潤(盛隆二)は、半年前に亡くなった母親から、芽衣に宛てられた手紙を預かっている。芽衣に手紙を渡そうとするも受け取りを再三拒まれていた潤は、桜に手紙を託す。

(ここからネタバレ)

母親の残した手紙を受け取った芽衣は「こんなことは知りたくなかった、墓場で持って行く話だ」と憤慨。
幼いころ、DVを防ごうと介入してきた芽衣の叔父は、母と密通していた。あろうことか、叔父は芽衣までも蹂躙。芽衣は中3のときに叔父の子を妊娠し、叔母の措置のもとで出産。
芽衣が入れ上げる養護施設育ちのホスト(渡邊圭祐)こそ、芽衣の実子だったのだ。
手紙を読み終えた芽衣は、叔父の孫娘である山鳥文(穂志もえか)に「あなたのお祖父さんを訴える」と告げる。

駅前広場のセットと電車に込められた隠喩

プログラム(劇場ロビーで販売、1,500円)によると、前川さんは昨年12月にギリシャ・エピダウロスに足を運んだそう。
なるほど、すり鉢状のセットは古代劇場やコロッセオを思わせるもので、特に舞台装置替えもありません。
一見するとワンシチュエーションですが、登場人物は街の空間を共にしているだけで、その場(メイン設定となる駅前広場)に居合わせているとは限らない。
特に説明もないので、居合わせているのか、あるいは別の場所で会話が交わされているのか、会話劇のシチュエーションの妙がありました。

通過して行く電車の効果音が痛ましい。後半に電車が脱線するのは、鉄道会社から通過駅としたことに何の説明がないことを憤ったカフェ店長・島忠(大窪人衛)の置き石によるもの。
けが人がいるかもしれないと現場に向かおうと焦る警備員・日暮栄(森下創)らに、島は「行く必要はない。たとえ出ていたとしても、出てくるべきは向こうのほうだ」と言い放つ。
後続電車も追突する衝撃の展開は、芽衣自身に起きた二重の悲劇(母と叔父の裏切り)を表す隠喩(メタファー)なのかもしれません。

演者について

芽衣を松雪泰子さんに当てなかったのが、やや意外。
カウンセラー役には池谷のぶえさんのほうが適役と感じますが、そういう「タイプキャスティング」は避けたのかな。

イキウメの看板役者・浜田信也さんは大道芸人ダンという、登場人物の誰とも繋がりのない、狂言回し的な役どころ。
「カウンセラーは悪夢を見た」としてダンが場面転換させる演出が好きで、東宝ミュージカル『エリザベート』を彷彿させるものが。
セリフもまたふるっていました。
投げ銭を入れても何もしないダンに怒った登場人物たちに「”何もしないことをしている”のだ」「お前らがおれを見ているのではない、お前らをおれが見ているのだ」という旨を言い放つくだりは、人間の選択や解釈の自由ともとらえられるし、自縄自縛に陥っている芽衣のことを指しているとも受け取れます。

まとめ

ファンタジー、ホラーでならす前川さんが社会派作品を描くとこうなるのか、と。
『オイディプス王』をベースとしてタイムリーな性犯罪を描いたのはたまたまなのか、それとも狙い撃ったものなのか気になります。

バッドエンドの予想しかなかったのですが、個人的には救済の物語であると感じられ、少しホッとしました。
人生は自分の選択次第で、いつだって転換できるのだ、と。

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