宝塚歌劇星組・紅ゆずるさん退団公演の東京宝塚劇場千秋楽『GOD OF STARS-食聖-』『Eclair Brillant』をライブビューイングで観てきました(2019年10月13日、13時30分~)。うーん、こんなに感傷的な気分になろうとは。言っても詮無いことですが、言わずにいられない。もう2年、いや1年でいいから、トップスターを務めてほしかった。
個人的な贔屓は次期トップスターですが、ここでは「紅ゆずる」という素晴らしいジェンヌについて、少し触れさせてください。
第一に「愛情」。ジェンヌであれば宝塚歌劇への情が誰しもあるのは当たり前でしょうけど、包み隠さず表明する度合いが、他のジェンヌの何倍も上。トップスターになり、退団時期を「好きすぎてあらかじめ決めていた」という旨を語ったのは、その一端です。
第二に「トーク力」(一番に挙げたいくらい)。こんなに頭がよく、楽しませてくれる喋りの達人ジェンヌは稀でしょう。なかでも星組のショーでたびたび登場した紅子(作り込みキャラ=本人が演じる「紅ゆずるの熱烈追っかけ」)は強烈でした。サヨナラショーまでこのキャラを自ら出すほどノリノリ。
宝塚では(というか、ほかの芝居でも)ご法度の掛け声も、「リアクションが命だから」とステージ上から観客に呼びかける。もちろん台本なしのアドリブ。観客、ファンの遠くからの求めに「よく通る声やなぁ、マイク仕込んどるのか」などと瞬時に当意即妙のリアクションで笑いを取る。
第三に「周りへの気遣い、優しさ」。劇中でもサヨナラショーでも最後の退団挨拶でも、劇団関係者からファンに至るまで、全方位に心を向けていたといっても過言ではないでしょう。「端にいる組子も見てほしい」とか「小林一三先生、ありがとうございます」とか、最後にそんな挨拶ができる人、そうはいません。
もっとも個人的には、サヨナラショーでオーケストラ指揮者・佐々田愛一郎さんに銀橋で「佐々田先生に“はいっ”と合図されないと、歌に入れなかった」とジョークで告白した場面に大笑いしましたが。こういうオープンで気取らないところもサイコーです。
最後の最後、挨拶の進行を担っていた組長・万里柚美さんが、感極まって言葉を詰まらせていたのが印象的でした。なんというか、ファンにも組の皆さんにも、ほんとうに愛されていた。もうこういうスターは後にも先にも出てこないでしょうね。
小柳奈穂子先生演出の『食聖』の悪役がいない物語性、酒井澄夫先生演出のテンポ感とバランスに富んだ『Eclair Brillant』のショー。最終日のサヨナラショーのまとまりまで。なんというか「涙で去らない」という本人の希望がかなった公演ですが、その明るさゆえ胸に痛く、寂しさを増幅させるものがありました。
すべてきれいに着地させ、舞台を去った紅さんに心からの拍手を送りたい。そして、第二の人生を応援したいと思います。