白石加代子のライフワークであり、代名詞ともなった『岩波ホール発 白石加代子「百物語」シリーズ アンコール公演第5弾』の初日を観てきました(2024年10月12日16時公演/シアター1010)。
1992年から始まったシリーズが今回のツアーでファイナルとのことで、ぼくにとっては最初で最後となる観劇でした。でも区切りの公演、間に合ってよかった。
百本のろうそくを立て、参加者が100の怪談を順に話し、ひとつ話し終えるごとにろうそくの火を消していく。100を終えて真っ暗になると怪現象が起こるといわれていることから、99話で留めておく――。開演の挨拶で白石さんがそんな説明をしましたが、白石さんの『百物語』は近現代の日本の作家による「恐怖」小説の朗読です。
前半は高橋克彦『遠い記憶』。スタッフの間で「怖かった作品1位」として挙げられる物語は、作者の居住地・盛岡を舞台にした会話劇。
幼いころに育った盛岡に仕事で訪れた主人公を、料理屋の女将・世里子が案内する。彼女に付いて歩いていくと、何も思い出せなかった記憶が徐々によみがえっていき……。
ネタバレになるから言えませんが、全編にわたり不穏な空気が覆い、記憶の封印が解かれる過程を観客が追体験する趣向。あぁこええ。
後半は阿刀田高『干魚と漏電』。越してきたばかりの家の電気代が高い、と集金人に文句を言う老女。食い下がる集金人に、「前に住んでいた家と間取りも明かりの数も同じなのに」と支払いを拒む。
根負けした電力会社が、家を調べてみると……。
前半の着物から一転、ロリータ風の衣装に身を包み(ローラアシュレイらしい)、素っ頓狂な言動で観客の笑いを誘う白石さん。これはコメディ? いえ、ラスト3分で恐怖への道がちゃんと開かれます。
この作品は、直截な表現にせず読者の想像力をかき立てるストーリーゆえ、朗読が生きてくる。
白石加代子が言葉を放つと、人と情景が舞台上に現れる
白石加代子版『百物語』は小説のリーディングですが、すべて言葉だけではなく、白石さんの演技が相まっての恐怖相乗効果なんですよね。
若い女から中年男性まで、台詞ごとに違った人物へと変幻自在。白石さんが演じると小説が立体的な芝居になる。登場人物がそこに出現する。
つまり、怖さが倍増するのです。
客席に正面を向いての演技は、上下を切る感じもあって落語的な妙味もあるなぁ、と。
リーディングというジャンルを超えて、これがもう1ジャンルではないかというほどの芝居です。
白石さんはなんと御年82歳。もはや年齢は数字でしかありませんね。
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