30歳で脱サラし、現在は千葉県匝瑳市で自給自足生活を実践する高坂勝さんの『減速して自由に生きる』(ちくま文庫)を再読しました。
無理に会社組織にしがみつき高給に囚われることから覚め、経済的な成長を追い求めることを止め、消費社会の歯車から脱ける。
それは決して蛮勇などではなく、少しの決意と行動でできる。その結果、受け取るお金(給与的なもの)か減っても、生活できるだけでなく、人生が豊かになるという。著者や周辺の人たちの体験をもとにした、夢のようなヒントと実例がこの本には記されています。
とはいえノウハウ本ではなく(高坂さんにかかると、下手なノウハウは邪魔っけにさえ見えてくる)、著者は構えることなくスローライフに移行できるとし、その効能を説きます。ダウンシフターズという副題からも分かるように、本の中身も、肩の力が抜けています。
高坂さんのことは、著者イベントを通して知りました。池袋駅から徒歩15分ほどの路地裏にある、高坂さんが開いていたオーガニックバー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」にはそのイベントで伺いました。
朗らかで気さくな高坂さんは、本書にあるように、修羅場をくぐり、自分で活路を見つけてきた人ならではの自信と包容力があります。
どうしたらあらゆる呪縛から解放され、自由を謳歌できるのか。それは本書に余すところなく書かれているので読んでみてください。それとは別に、高坂さんがすごいと思うのは、ダウンシフト伝道師という「生業」もさることながら、繋げる人でもあること。
高坂さんを慕って、たまTSUKIに人が集まるのは分かるのですが、それに留まらない。客同士、引き合わせてみて面白い、何か化学反応を起こしそうと思ったら、自己紹介タイムにしてしまうが高坂流。
ぼく自身は、 BARという空間で居合わせた見知らぬ客の顔すらも見ませんので、会話するなどもってのほか。あ、話しかけられたり、マスターが紹介してくれたりしたら話は別ですが。
それを易々とやって場を盛り上げ、店のオペレーションを円滑にし、客同士の距離を縮める。こういう高坂さんの芸当、誰にでもできることじゃない。普通にできるようになってみたい、粋な振る舞いです。
たまTSUKIは、高坂さんがよりラクな暮らしを実践すべく(失礼)、店をたたんでしまいました。こういう店がもっと増えたら面白いのに。BARは人なり、とも思うのですが、それが突出した一例が高坂さんであり、その店=たまTSUKIを形作った人たちだと思うのです。