東京・竹橋のMOMAT、東京国立近代美術館で日本画家・鏑木清方(1878~1972年)の作品の特別公開が行われてます(~2019年12月15日)。その作品とは「築地明石町」と題された美人画。実に44年ぶりの公開だそうです。
1975年(昭和50年)以来所在不明だった「築地明石町」と、これを含めた三部作「新富町」「浜町河岸」の3点をMOMATが収蔵したことを記念する特別展示。三部作と併せて、清方30代~50代のころに描かれた画業ピーク時の作品が展示されています。
この「築地明石町」、日本画に興味なくても一度は見ておいたほうが良いです。というか、わざわざこの絵1枚を目当てに美術館を訪ねるだけの価値はあります。
清方の画のなかでも明らかに抜きん出てる。刹那見せる横顔の、上品な色っぽさ。背景の霧もやのぼやけ具合、着物や草履の鼻緒の細緻さとのコントラスト。ゾクッとするようなまなざし。この1点だけで何杯でもいける、語りたくなるような作品です。所在不明だったのは、あまり多くの人の目に触れるのを出し惜しみした神の悪戯でしょうか(※1)。
展示されている美術館3階の所蔵品ギャラリー第10室は平日にもかかわらず、そこそこ入場者が多く(とはいえ混雑ではない)(※2)、こんな場面がありました。ある高校の女子生徒さんのグループがこの三部作を前に「かわいい、かわいい!」と感嘆の声を連発していたんです。いやぁ、なんかうれしくなりました。今の若い世代にも伝わる魅力もあるんでしょうな。
日本画の美人画というと、切れ長・流し目の和風美人像が想像されますが、三部作はそれらとは明らかに異なる進化した美人画のイメージ。なかでも特に「築地明石町」はモダンな、どこか洋画の趣さえ感じさせます。夜会巻きっぽいヘアアレンジとか外出の装い、どこか物憂げな佇まいとか、この絵1枚でいろいろ想像をかきたてられます。
展示には「築地明石町」のモデルとなったのは清方夫人の友人、江木ませ子さん(1886〜1943)のポートレイト写真も。もちろん写真でも美人ですが、個人的にはこの絵画のほうに魅了されました。
展示には、重要文化財「三遊亭円朝像」や「明治風俗十二ヶ月」といったシリーズも展示されていて、1時間以上も展示室でゆっくり世界に浸りました。同美術館では2022年に「没後50年 鏑木清方大回顧展(仮)」が予定されているそうで、こちらも楽しみです。冒頭写真は会場で配られているパンフレットと、おみやげにかった絵はがき。なお、この展示室は撮影禁止。再入場不可です。
(2019年12月6日追記)
※1. 「築地明石町」の所在顛末が、鏑木清方著『紫陽花舎随筆』(講談社文芸文庫)に記されています(会場の東京国立近代美術館のミュージアムショップでは売り切れ)。コンディションのいい状態でこうして美術館で共有されるのは奇跡でもあり、また流転というか雲隠れの運命がミステリアスで、作品の伝説化に繋がっている一面もあるでしょうね。
※2. 金曜と土曜の夜間開館を利用し、2回目の鑑賞。12月6日の18時30分ごろ、展示室は鑑賞者の列がずっと続いている状態でした。入場制限するほどではなかったですが、最終日に向けて混雑が増すのは目に見えてますね。早めの鑑賞をお勧めします。