噺家が高座を降りて楽屋に戻るとき。その一瞬を想像する。

前頁の続き。謝楽祭の後は鈴本演芸場に移動。夜の部を最前列で観てきました。

9月上席の演者はアイキャッチ下、市童さんから市馬さんまでです。
3日のネタは

柳亭市童「堀の内」

柳亭燕路「だくだく」

台所おさん「真田小僧」

柳家さん喬「長短」

春風亭一之輔「黄金の大黒」

橘家文蔵「寄合酒」

柳亭市馬「鰻の幇間」

でした。

この日、日中に近隣の湯島天満宮で行われていた落語協会のファン感謝イベント「謝楽祭」は、演者の枕や前ふりの格好のネタですね。大半はボヤキ節なのですが、それもまたお約束。そんななかで、一之輔さんと市馬さんは、まったく謝楽祭に触れない枕でした。客席には今日の祭りのことを知らない人がいる、知っていても来られなかった人がいる。そういう客を置いてきぼりにしない、スマートな目配りを感じました。

この日は寄席最前列を初体験、しかも中央で。案の定、奇術のダーク広和さんがカード手品を披露した際、その手伝いに指名されてしまい、まんまと演出に一役買うことに。それもまた愉しですね。

いろんな芸人さんが織りなす演目とアドリブ、観客と形成する空気、華やかな雰囲気……。寄席に限らずライブは大好きです。が、寄席の場合ぼくは

「高座を降りる演者の後ろ姿を最後まで見届けてしまう」

という悪い(?)クセがありまして。そこまで細かく観察している人は稀だと思うのですが、これが厄介なんです。

「受けなかったなぁチクショー」
「ずっと寝てるやつがいた」
「終わった終わった飲も飲も」

もちろん全部想像ですよ。一流の芸人さんたちですから、そんなことをいちいち考えないだろうと思いつつ、「今どう思っているのだろう?」と想像せずにいられない。芸人さんの心の声が聞こえてきそうなんですよね。ぼくは観ながら、勝手にそんな想像をして勝手に疲れています。

特にこの日は最前列だから、なんだか余計に圧がかかる感じ。そして出番を終えた芸人さんに共通項を発見しました。それは

「誰一人として足取り軽く、高座を降りる人はいない」

ということ。

ひと仕事終えた虚脱感、出し切った安堵感、やれやれな疲労感。絶対に口しないけど、間違いなく芸人たちは命を削っている。高座を降りてヨロヨロと去っていくその背中で彼らは語っている。時に雄弁に、時に訥々と。

そんなぼくとしては、「今日もありがとう」と内心でつぶやくしかないのだけど。