スコッチの生産区分のうち、「アイランズ」と「キャンベルタウン」の秀逸なモルトをいただきました。
ウイスキー文化研究所認定ウイスキープロフェッショナル・根本毅さんのリコメンドによるものです。
根本さんが主宰するウイスキー講座で、今回(第23回)のテーマは「アイランズ&キャンベルタウンドモルトウイスキーを楽しむ」です。
個人的にキャンベルタウンの「ロングロウ」ファンなので、そちらに期待を込めつつ参加(なんと、いただくことができました)。
体験できたのは、冒頭アイキャッチ写真のスコッチモルトです。
下記にテイスティングの個人的主観をメモります。
1. アイル・オブ・ジュラ(Isla of Jura) 10y 43% around 2000’s OB
- 香り…ナッツミルクティー、グレープシードオイル、干しぶどう
- 味…ライトボディ。レモン、麦芽。時間が経つとカツオブシ。余韻は短め。
ホワイト&マッカイ社所有(他にダルモア、フェッターケアンなど所有)、ジュラ島所在。
このジュラは現在、樽のリカスクが進行中で、根本さんによると「もっさりしていたのが、だいぶ良くなってる」とのこと。
2. トバモリー(Tobermory) 12y 46.3% OB 2019 release
- 香り…アプリコット前面。オランジェット、クリーム。
- 味…柑橘系の甘さ優勢。黄桃、オランジェット、麦芽。
バーン・スチュアート社所有、マル島所在。
南アのディスティルグループ傘下のバーン・スチュアート社が買収後、ノンピートのトバモリー(全体の45%)と、ピーティなレダイグ(全体の55%)を1年ごとに”二毛作”としているそうで、実にユニークです。
レダイグは個人的には、味のキツいモルトで苦手なのすが、このトバモリーは飲み心地良いですよ。
この2銘柄が、同じ蒸留所で造っているとは信じられないくらい。
3. アラン(Arran)21y 46% OB 2018
- 香り…甘さが支配。ミルクチョコレート、アーモンド、ココナッツミルク。
- 味…ミディアムボディでねっとりした舌触り。ヘーゼルナッツチョコレート、ハチミツ、ケーキシロップ。
アイル・オブ・アラン社所有、アラン島ロックランザ所在。
日本びいきというハロルド・カリーさんが、同島に160年ぶりとなる蒸留所を建設したのが1993年。
こちらは探せば飲める、現段階で最も長熟のモルトで、バーボンカスクとシェリーカスクのヴァッティング。
世界9000本リリースで、うち500本が日本に入ってきたそうです。
アランは現在、島内に第2蒸留所を新設し、それに伴いパッケージも一新。
注目度は高まるいっぽうですね。
4. タリスカー(Talisker)18y 45.8% OB
- 香り…ツンとくる入口。ピート、リンレイの床ワックスとモップ、消毒液、立ち込める霧の中にシュークリームがポツリ。
- 味…谷中生姜、焦がした醤油、プリンのカラメルソース。
ディアジオ所有、スカイ島所在。
このタリスカーはバーボンカスクとシェリーカスクのヴァッティングで、2010年前後のボトルだそうです。
こちらはスパイスタッチが強く、現行の18年は甘さ優勢に造られていると判ります。
5. ハイランドパーク(Highland Park)1989-2008 19y 55.6% SHINANOYA
- 香り…シェリー酒の主張あり、ラベンダー、ピート、ナッツ。
- 味…熟成が進んだ深み。塩気、ハーブ。
エドリントングループ所有、オークニー諸島メインランド島・カークウォール所在。
酒販店、信濃屋食品のバイヤー・北梶剛さんレコメンドによるもの。
ハイランドパークというと、どっしりとしたピートとシェリー樽による香味のバランス。
ですが。こちらのボトルは、OB(オフィシャルボトル)とは全然違うエレガントな美酒です。
6. スプリングバンク(Springbank) 1989-2006 16y 52.7% SMWS 27.62
- 香り…画用紙とキャンバスのような趣。徐々に柑橘中心の香りがやってくる。
- 味…甘さ優勢。穀物由来の甘み、よく冷やしたデザートの桃。
J&Aミッチェル所有、キャンベルタウン所在。
100%フロアモルティング(自家製麦)という、とことん昔のままの製法を保つのは、家族経営ならではでしょうか。
こちらのボトルはスプリングバンクの特徴といわれる塩気はさほど感じられず。
むしろパワフルで甘さが立った香味がすてきでした。
「アイランズ」って、一括りにする分け方は雑だなぁと常々思うんですけどね。
単純に「島しょ部」という地理的要素なので、ムキになることはないのですが……。
蒸溜所それぞれで特徴が全く異なるので、何か違和感があるのですよ。
しいて特徴を言えば、ややピート香を感じられるモルトが目立つところかな。
個人的にはキンタイア半島の先端から国に名を轟かす栄華を誇ったものの、今は蒸留所が3つのみというキャンベルタウンの栄枯盛衰に魅かれるものがあります。
根本さんのテキストによれば、キャンベルタウンは「かつて漁業、炭鉱、造船、ウイスキーなどの産業でスコットランド1裕福な街と言われた」そうですから。
それがいつしか、ニシンは不漁に陥り、石炭は掘り尽くされ、海運も廃れ……。
高度経済成長期を経て、成熟という名で脱皮できないことをごまかす、どこぞの国を見ているようです。
キャンベルタウンはウイスキー産業で再起を図るも、米・禁酒法時代に粗製乱造した酒を輸出したことがブーメランに。
絵に描いたような人間の弱さが歴史に表れているのが面白く、また悲哀を感じます。
でも、こういうとき、スプリングバンクのような家族経営で地道に細々とやっているところが、結果今に生き延びています。
それどころかスプリングバンクは、かつて存在した蒸留所「ロングロウ」「ヘーゼルバーン」ブランドを再興させました。
あまり目立ちませんが、昨今の「グレンスコシア」の動きといい、スコッチブームのダークホースがキャンベルタウンといえる気がします。
ご一緒したみなさま、今回もありがとうございました。
@Bon Vivant