『髑髏城の七人』の後は、日生劇場に移動して『グレート・ギャツビー』です。井上芳雄主演、小池修一郎演出という鉄板のキャスト&スタッフでしたが、こちらは乗れませんでした。楽曲も難しいし、そもそも原作が好きでないからなぁ。
『グレート・ギャツビー』はフィッツジェラルドが書いた1920年代禁酒法の米国を舞台にした小説、アメリカンドリームのもろさと儚さを体現、古くはレッドフォードで最近ではディカプリオで映画化された、云々。そんなことよりも日本では村上春樹さんが影響され、翻訳も手がけた作品というのが、最も通りがいいかもしれませんね。
ギャツビー役は貴公子・井上芳雄。2016年、2015年の帝劇ミュージカル『エリザベート』のトート役で井上さんを観ましたが、どうにもピンとこなかった。そのときダブルキャストの城田優が素晴らしすぎたこともあったのですが、今回の『グレート・ギャツビー』を観て確信しました。井上さんは「黄泉の帝王」のような得体のしれないキャラクターよりも、生身の人間を演じたほうが役に説得力を持たせられるのです。
『モーツァルト』『ルドルフ』といったタイトルロールでの苦悩を背負った偉大な人物もそうですが、今回の井上さんを見て思い出したのが、『二都物語』のシドニー・カートン役でした。とんでもない自己犠牲を、悲壮感なく、それどころか本望だとばかりの笑みをたたえて演じられたら、観客はたまったものではない。打ちのめされますね。
ぼくとしては、今ならストーカーで一蹴されるだろうギャツビーの行動をばかにする気にはなれないし、一方でギャツビーが結婚を望んだ相手デイジーの身勝手さに頭にきてしまう。ギャツビーやその親友ニック以外の登場人物の大半が好きではない。ミュージカルにアレンジされたくらいでは、その気持ちは変わりませんね。
せめて音楽が盛り上がれば鑑賞感も違うのでしょうけど、リチャード・オベラッカーさんの楽曲がまるで印象に残らない。シルク・ドゥ・ソレイユのほかオリジナルミュージカルを手がけていて、演出の小池さんが複数の新進候補者から白羽の矢を立てたとか。であれば、もうちょっと聴いてみてから良し悪しを語りたいところですが、次の機会があるのかどうか。
この日は『髑髏城の七人』終演後、IHIステージアラウンドのある豊洲から日生劇場の日比谷までタクシーで移動する強行軍。その間30分しかなくスタートに間に合うかハラハラしましたが、結局到着したのが開演7分前。フタを開けてみれば余裕でセーフでした。タクシーの運転手さんに「5時までに着きたい」とはっきり伝えたのが奏効したんでしょうね。