鈴本で見た隅田川馬石さんの「粗忽の使者」が気になって、HDDレコーダーに録りだめてあるNHKの番組『超入門!落語 THE MOVIE』の録画リストをたどってみました。この演目、番組で語っていたのは柳亭市馬さんでした。
『超入門!落語 THE MOVIE』は、古典落語の演目をドラマで再現し、その面白さをわかりやすく伝える番組です。いかにもNHKらしい番組でしょ?
でも、この番組がすごいのは、そんな教養チックなところではない。ドラマに出演する俳優が、噺家のしゃべりに完璧にセリフを合わせているところ。要するに「アテブリ」なのです。高座に上がって演じる噺家を時折見せながら、(古典落語ですから)時代劇調に落語の演目を描写するわけです。
第1回から落語協会の実力派が登場する豪華さ。春風亭一之輔さんの十八番のひとつ「かぼちゃ屋」は与太郎に加藤諒さんが扮していたし、「お見立て」で古今亭菊之丞さんの話に合わせていたのは前田敦子さん(花魁役が意外にうまかった)、梶原善さん、 塚地武雅さんというバラエティに富んだキャストでした。「粗忽の使者」では市馬さんの語りに合わせ、物忘れの激しい侍を今野浩喜さんが演じていました。
役者の演技が申し分ないのに、アテブリゆえに撮り直すことがザラにあるとか。制作スタッフによる裏話がたまりません。現在Eテレでやっているのは事実上の再放送ですが、作り手が大変なのを承知であえて言います。「ぜひ新作を」と。
古典落語は300とも500ともといわれるほどですから、ネタ数には困らないはず。あとは予算と労力の問題でしょうけど、これをやれるのは現在のテレビではNHKしかありません。民放でやったら考証面がいいかげんに処理されそうだからね。レギュラーが無理なら、特別編成時の単発でなんとか。若く威勢のいい噺家が台頭している今こそ、続けてほしい番組です。