上野鈴本演芸場2022年7月上席夜の部は、古今亭文菊さんが主任。
「シン・文菊十八番」と題され、ネタ出しの芝居です。
七日目の「庖丁」を聴いてきました。
仕事終わりで、この1席だけなんとか間に合った。
「庖丁」はもともと上方の演目で、明治時代に東京でも演じられるように。
六代目三遊亭圓生、五代目古今亭志ん生などがオハコとしていたようです。
脇にできた若い女と一緒になりたい久次が、弟分の寅を間男に仕立てて女房を誘惑させ、そこに自分が包丁を持って踏み込もうと悪だくみ。
「よくも亭主の顔に泥を塗ったな」とひと芝居を打ち、邪魔になった女房を芸者に売り飛ばし、そのカネを寅と山分けしようというハラらしい。
なんとなく気乗りのしない寅だが、久次の言われた通りに女房を口説きにかかり……。
「庖丁」は、寅が久次の女房を口説くところが見せ場のひとつで、なんとかして近づこうとボディタッチを試みるも、撃退されるの繰り返し。
だんだんゴーイン度が増してくる寅に、最初はやんわり押し戻していたものの、堪忍袋の尾が切れてついに彼女は頭をバチーンと一発。
とことん叩かれ蔑まれる寅と、色気の中に凛とした強さを見せる久次の女房(清元の師匠という設定)。
ワルの久次とその女房、「ダボハゼのようなツラの」寅という、かけ離れたキャラ3人の演じ分け。
文菊さんは「女形」が堂に入っているし、久次のワルっぷりも見事。
でも最も難しいのは、久次の女房に「ぶたれる」寅の演技ではないのかな。
寅の口説きの仕草を、日舞の振り付けのごとくコミカルにしつつ、ひっぱたかれて「痛いっ」となる。
この緊張と緩和もたまりませんでした。
サゲも潔くて、この演目いいですね。
亭主がニセの浮気をでっち上げてカネをせしめようとする落語に、もうひとつ「駒長」という噺がありますが、現在やる噺家さん、いるのかな。
ぜひ聴いてみたいものです。