鈴本演芸場の3月下席夜の部は林家彦いちさんが主任です。こわい話をする怪談部の顧問になった熱血教師・流石(ながれいし、と読む)先生は、文化系の生徒たちにもビシビシ体育会系で接する。部の指導を終えて校内を見回った流石は、本物の幽霊や妖怪に出くわすが……。まるで落語の「化物使い」を現代の学園ものに仕立てたような噺ですが、さらに仰天のサゲが待ち構えます。ネタ帳はこちら。
金原亭駒六「子ほめ」
林家けい木「湯屋番」
春風亭一花「真田小僧」
橘家文蔵「寄合酒」
宝井琴調「講談 徂徠豆腐」
柳家喬太郎「粗忽長屋」
橘家圓太郎「祇園会」
林家彦いち「熱血怪談部」
この3月下席は一花さんが二つ目昇進だそうで、番組案内にもそう書いてあります。玄関にファンから花が届けられていたり、高座で本人が師匠・一朝さんに習ったという笛も聴かせてくれたり、こういう雰囲気はいいですね。客席入口の隅っこで三脚を立てている報道カメラマンがいるなぁと思ったら、噺家の写真を撮影している横井洋司さんでした。一花さんを撮っていたのですね。
噺家は真打になるよりも、二つ目に昇進したときのほうがうれしいとよく言いますよね。羽織を着て高座に出られるとか、前座さんが楽屋でお茶を出してくれるとか。待遇が目に見えて違う。真打に昇進するときはこのうえ「覚悟」が伴ってくるから、うれしさよりも重みのほうを感じるのでしょうね。
講談・琴調さんの「徂徠豆腐」は世に出る前の学者・荻生徂徠と、食うにも事欠く徂徠に豆腐を「出世払い」で支援した豆腐屋さんの人情譚。危うく涙しそうになりました。いい話、大好き。
この日いちばんは「粗忽長屋」をやった喬太郎さんでした。粗忽者同士のそそっかしいやり取りを描いた「粗忽長屋」は話として可笑しいのですが、よくよくサゲまで聴くとけっこうミステリアスというか、怖い話でもあります。
「抱かれているのは確かに俺だが、抱いている俺は誰なんだ?」
このサゲですね。これを喬太郎さんが言うと、ぞわっとします。
座布団と小道具の扇子のみ。喋り身ぶり手ぶり。落語は言ってみれば、究極の一人芝居なわけですが。喬太郎さんが他の噺家と違うのは「芝居心」があるからではないでしょうか。他の噺家は明らかに「落語」なのですけど、喬太郎さんは映画や演劇にも通じる芝居っ気も感じさせる噺家のような気がします。
喬太郎さんがNHK『超入門!落語 THE MOVIE』でやった「死神」などはその最たるもので、その演技が見事としか言いようがありません。いずれLIVEで見てみたいです。