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『渚にて -人類最後の日-』、人間の本質とあり方を問う。

ネビル・シュート「渚にて」

一読忘れがたい本。残酷で、悲しく、美しい。
日本初版1958年(昭和33年)ですが、内容に全く古さがありません。
ネタバレ気味に振り返ります。

『渚にて -人類最後の日-』(On the Beach / ネビル・シュート / 井上勇 訳 / 創元推理文庫)

第3次大戦が勃発した。ソ連と北大西洋条約諸国との交戦はひきつづいてソ中戦争へと発展し、4千7百個以上の水爆とコバルト爆弾が炸裂した。戦争は短期間に終結した。しかし濃密な放射能が北半球をおおい、それに汚染された諸国は、つぎつぎに死滅していった。その頃、かろうじて生き残ったアメリカの原子力潜水艦スコーピオン号は、放射能帯を避けてメルボルンに避難してきた。オーストラリアはまだ無事だった。しかし、おそるべき放射能は刻々と南下し、人類最後の日が迫っていた。フィクションの域を越えて読者に迫真の感動をあたえる名編!
文庫版あらすじより

絵空事で済ませられない

戦争によって北半球が既に壊滅した後の世界で、戦争の描写は出てきません。大別すればSFですけれど、絵空事として読めませんでした。
プーチンによるウクライナ軍事侵攻、2027年までに台湾軍事侵攻を指示したとされる習近平。
単なる地域紛争ではなく、ここから第三次大戦に燃え広がらないと断言できますか。
一部の独裁者のルサンチマンと愚行によって、この小説が現実にならないことを願うばかりです。

折り目正しいキャラクター

唯一残った米海軍の潜水艦長としてオーストラリアに艦を率いてきたドワイトは、最後まで高潔に任務をまっとうします。
妻子あるドワイトを好きになりながらも、決して間違いを犯さない牧畜業者の娘モイラ。
ドワイトを最後まで支えるオーストラリア海軍少佐ピーターはいよいよというときも比較的元気ですが、それを妻メアリーの前には出さず、一緒に自殺薬を飲む。
誰もが抑制的で、最期まで秩序を保っているのです。

愛車フェラーリでレースに出る科学者、故郷の陸を目の当たりにして艦から飛び出し、放射能に汚染させた海原で釣りに興じる水兵、高級クラブで年代物のシェリー酒を飲み明かす退役軍人。
誰もが気が狂い逸脱したように見えますが、そうではない。自棄を起こしたわけでもなく、むしろ自分で自分の道を決め、静かに運命を受け入れていく描写に心打たれます。

訳文の美しさ

品がいいのです。
特にモイラは酒飲みでぞんざいな物言い、やんちゃなキャラクターですが、物語が進むにつれ彼女が理性的になっていきます。

よござんす、〜ですの、〜ですわ、〜してよ……。
この物語で最も奔放で現代的なキャラクターでありながら、こうして今は使わない言葉遣いによって彼女の心根の良さがわかるんですよね。

自分が思うよりも、周りがどうにかしようにも、どうにもならないことがある。
この物語に出てくるすべての人のように、たとえ悪いことが起きても理知的に受容できるか。
あってはならないことが不幸にして起きたそのときにどうあるかで、人間の本質が表れるのでしょう。

ところで、日本版翻訳権を所有する東京創元社の創元推理文庫から新訳版が出ていますが、なんと1,000円もするではありませんか。
文庫本なのに!
さらに旧訳はネット書店でも見つけづらくなっています(下記リンクは新訳ですのでお間違えないように)。
旧訳派の身としては、いずれ新訳版にあたることとします。もう少し余韻に浸りたいので。

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hiroki「酒と共感の日々」

hiroki

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