帝劇ビルの建て替えにより2024年12月で休館する出光美術館。節目となる今年は4月から「出光美術館の軌跡 ここから、さきへ」というテーマで、4つの会期に分けて特別展を開催しています。
第4期となる『物、ものを呼ぶ―伴大納言絵巻から若冲へ』展を観てきました(2024年9月7日~同年10月20日)。
37点の展示のうち国宝がふたつ。そのひとつ『伴大納言絵巻』は、応天門の変で陰謀を図った大納言・伴善男を軸とするストーリー仕立ての絵巻物。
全三巻のうち上巻が展示されており、あちこちに点在する群衆のそれぞれに、思惑やキャラが設定されているのがすごい。なんたる細かい芸当。
平安時代の作品であることを考えると、彩色が残っているのも素晴らしい。保存状態のよさで美術館が本作をいかに大切にしているかがわかります。
ちょうど年末に、歴史コミックを原作とする『応天の門』が舞台化されることもあってか、人だかりが絶えず。
ぼくはといえば、『伴大納言絵巻』自体もさることながら、この絵巻のストーリーを絵で解説したパネルが面白く、つい読み込んでしまいました。
パネルに気づかずスルーする人も多く、こちらはゆっくり読めました。本展にお出かけの際はぜひ。
伊藤若冲や『江戸名所図屏風』などは展示室の中でも大人気ですが、個人的には谷文晁の文人画2点に魅了されました。
展示されている作品は2点とも庭園の描写ですが、余計なものを足さないシンプルさゆえの味があります。
にしても、谷文晁といえば最近は春風亭一之輔さんの得意演目『普段の袴』を思い出し、ついクスッとしてしまうのは我ながら困りもの。
そもそもタイトルの『物、ものを呼ぶ』とは
「別れ別れになっている作品同士でも、ひとつに愛情を注いでいれば、残りは自ずと集まってくる」と陶芸家・板谷波山が、初代館長の出光佐三に贈った言葉だそう。
深い、深いですねぇ。田端文士村の中心人物である板谷波山は、芥川龍之介はじめ文人とも親交が深く、まさに「類は友を呼ぶ」を美術品に置き換えたかのような至言です。