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【小説】遠藤周作『留学』:諦念や挫折=棄教なのか

遠藤周作『留学』

語学や資格修得、異文化体験、キャリアアップーー留学という言葉からは、成功への序章としての箔付け的な意味合いと華やかなイメージが付きまといます。

遠藤周作『留学』(新潮文庫/文藝春秋より1965年初版)は、その言葉の持つ本来の意味に否応なく立ち返らせる小説です。
カトリック神学生の工藤、キリスト教を棄教した荒木トマス、渡仏した外国文学者の田中。3人の苦難と葛藤、挫折を描くものです。

留学したフランスで寄宿先だけでなく周辺住人や神父たちから過剰なまでの期待を受け、息抜きの時間もままならぬ『ルーアンの夏』主人公の神学生・工藤。

切支丹弾圧が始まった日本を脱出しローマで聖務に励むも帰国後の拷問で転び、棄教に追い込まれる荒木トマスを描く『留学生』。

この短編ふたつの後に続く長編『爾も、また』が、つらく、痛い。
選ばれしメンバーとして自らの研究テーマであるフランソワ・ド・サドを掘り下げるためパリに乗り込んだ仏文学者・田中。だが、取材先の偏屈なフランス人研究者から協力が得られなかったのを機に、留学生活に暗雲が立ち込める。

現地に滞在する派閥にも似た日本人研究者たちになじめず距離を置く、自分のすぐ後にフランス留学してきた助手に嫉妬する、フランス人たちに差別的にあしらわれる、石畳のパリ市街に疲れ果てる、帰国した後の大学の処遇に煩悶する。

鬱屈と孤独に苛まれる主人公を最も蝕むのは、サドの足跡をたどりながらもカギとなる城に近づけないこと。
近づこうとしても雪が深くてあと一歩で撤退を余儀なくされる。それは本気でないからだと自分を責める田中があまりにも痛々しい。
やっとの思いで立ち入った城で、田中にトドメを刺すような苦難が襲います。

『沈黙』の前哨戦としては出来すぎの過酷さ

信仰や神をテーマにした『沈黙』は遠藤周作の代名詞的作品ですが、本作も負けず劣らず読み手を消沈させます。
本作の下敷きはカトリックの留学生として渡仏した遠藤の原体験が生きているのは明らかですが、本来留学とは心血を注ぐゆえに文字通り血を吐く思いで行くものではないのか。

同宿だった先達の留学生で、結核にかかり帰国する向坂が田中に寄せた手紙の文面が突き刺さります。

「(略)あの国に出かけていって、自分の研究や学問が肥えふとったと言う留学生が何と多いことでしょう。だが彼等は肥える筈はない。あの国にいけば、日本人は私のようにまず疲れ果て痩せてしまう筈だ。自分の人生が、あの国のある巨大な熔岩にぶつかり、身動きがとれなくなったと告白する男のほうを私は信じます。(略)」
遠藤周作『留学』第三章「爾も、また」(新潮文庫)P.300

命をかけるとか本気とか戦うとか、そういう言葉をよく耳にしますが。心から口にしている人はどれくらいいるのか。
本作を読むと、人が決意し貫くとは、ある種の信仰に裏打ちされているのではないかとも感じ入るのです。

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