東京ステーションギャラリーで開催中の『甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性』(〜2023年8月27日)を観てきました。楠音さんの特異な芸術世界観と、退廃的で凄艶な作風。まさに「妖しい絵」という表現がピッタリな世界に魅入られました。
前半は描いた美術作の展示
序章「描く人」で出品されている『横櫛』という同名の2点にまず驚き。ビフォーアフターのように横並びで展示されており、端正からケレンのような、作為的な修正が施されています。修正どころか、事実上の描き直しでしょう。楠音の手記によれば、絵のモデルは兄嫁である彦さんだそうで、彼女が作品を目にしたかどうかは定かではありませんが、修正後を観たらどう思うかなぁ。
メトロポリタン美術館から里帰りしたという、昭和初期の傑作『春』も展示されています。そうした大作もさることながら、小品だったり、スケッチブックの一端だったりに、楠音という人の類まれなセンスを感じます。
その最たるものが楠音のスクラックブック。現代の「Pinterest」といえるもので、壮観な展示。でも、これって、あくまで自分用のものであり、自分が死んだ後に公開されるとは思わなかっただろうな。なんだか作家の秘密の創作ノートを覗き見るような後ろめたさがありました。
後半は自らが表現者&裏方となった作品群の紹介
第3章「越境する人」以降は、『旗本退屈男』『丹下左膳』など、楠音が映画のスタッフとして携わった作品のポスターや衣装、スチール写真の紹介が中心。作品ごとのキャプションに、楠音が何で携わったのかの説明が。時代考証、衣裳考証、美術などで名監督たちを支えていることが分かります。『雨月物語』(1953年大映/溝口健二監督)では、風俗考証としてアカデミー賞衣裳デザイン賞にノミネートされています。
個人的には断然、前半
とてつもなく個性的で、絵画、演劇、映画まで手がけた楠音の傾向は、今でいうマルチアーティスト。ただ、個人的には画家としての楠音さんに魅了されます。
なぜなら作品の奥から「何があったんだろう」と思わせる何かと、着物の手ざわりや絹鳴りまで聞こえてきそうな繊細なタッチゆえ。こちら側に、絵のヒロインを想像させるストーリー性があるんですよね。
未知なる視点を提示してもらえた時間でした。
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