ネットニュース編集者で多数の著書を出す中川淳一郎さん、ぜひともお会いしたい方リストの一人です。その中川淳一郎さんの新著『ネットは基本、クソメディア』(角川新書)を読み終えました。DeNA運営のキュレーションサイト「WELQ」がどうして閉鎖に至ったか。著書ではその問題の根っこと、コンテンツ粗製乱造の背景を深堀りし、ネットメディアだけでなく、新聞・出版・テレビといった既存のマスメディアの問題点にも踏み込んでいます。
「クソメディア」、いかにも中川さんの本らしい、歯に衣着せぬタイトルですが。ブログをされている方には、ぜひ一読を勧めたい本です。自分の書いている記事は公開されているものだと認識すれば、その内容において「まぁ、こっそりやっているからいいや」とか「どうせPVは少ないし」とか、そんな言い訳は一切通用しないのだと再認識しました。
テレビの内容を批評し、よく「公共の電波を使ってどうたら~」って言いますよね。言うまでもなくブログは、引き出しの中にこっそり隠した秘密の日記ではありません。ネットという通信を使って公開してる時点で、自分だけのものではないんです。
独り言のように内心を吐露するだけならともかく、何かについて書くなら、持てる正確な知識を元手にしないと、自らのサイトと運営者たる自分への信頼が損なわれるのは当たり前ですよね。ましてや、伝聞やパクリではない、実際に触れたこと(五感をもって体験する、メディアを気取っていえば「取材」する)で記述するのは当たり前です。引用するなら主従を明確にとか、ライツに配慮するとかね。
そういうきちんとしたプロセスを経ない手抜きの結果は、自分がしっぺ返しを食らうだけです。
自分の属している組織もそうなのですが、とにかくいかにショートカット、コストカットしてコンテンツを作るかに価値が置かれがちです。「生産性を上げる」などという題目のもと、合理化に血道を上げ、教育を疎かにし、さっさと作ったもの勝ち。表向きは「コンテンツの質を上げる」と言っておきながら、誰もそのコンテンツに責任を持たない。「スピードとクオリティの両立」という二兎を追い続けているけど、いつも疑問符を抱えてます。
でも中川さんの本を読んで、ちょっと光が差し込みました。「あぁ、足で稼ぐことは悪いことではないんだ」って。そういう泥臭いことや現場主義は冷笑されがちだけど、いいんですよね。場合によっては効率が悪く、歩が合わないことだってあるだろうけど。そういうことを厭わずやること、必要ですよ。
ぼくがテレビ誌記者として駆け出しのころ、当時のボスにこう言われました。
「うちの名刺があればたいていのことは取材できる」
その意味が1年目のころは理解できなかったけど、2年目以降だんだんわかってきました。
それは「週刊○○」と入った名刺を持って声をかければ、とりあえずは「何?」と応じてくれる人が多いこと。ただし、そっから先、どうやってネタを持ってくるかは「自分」にかかっています。
だから、組織の中にあって本当の意味で強い人とは、
「組織(ブランド)力を生かしながら、自分の名前で仕事ができる人」
と思っています。もちろん上記の後半だけで(要するにフリーランスとして)勝負できたら最高だけど、自分の属する組織名を上手に使える人だって素晴らしいですよ。
中川さんは本著で既存メディアもだんだん余裕がなくなっており、今やネタ元はネット頼み、マスメディアもコタツ記事の温床になりかねないと危惧します。メディア力の衰退など信じたくない話ですが、そう感じる既存メディア(活字媒体)の記事は、けっこうあることも確か。ぼくなどが言うのはおこがましいですが、既存メディアの人には組織を使いつつ自分の名前で仕事をしてほしい。
中川さんもそうですが、既存メディアやネットメディアの垣根を越えてスター編集者、スター記者の活躍をもっとたくさん見たい。そしてメディアがもっともっと盛り上がるといい。それがエンターテインメントのひとつでもあるのだから。