東京宝塚劇場で星組『1789―バスティーユの恋人たち―』2公演を観てきました(観劇回:2023年7月29日11時開演、同年7月30日15時30分開演)。
帝劇の東宝版で観て以来、実に7年ぶり。フランス革命に身を投じる貧乏農家の息子ロナン(礼真琴)。彼を革命へと導くブルジョワのデムーラン(暁千星)、ロベスピエール(極美慎)、ダントン(天華えま)。平民の出ながら王太子の養育係を務めるオランプ(舞空瞳)、国王ルイ16世(ひろ香祐)と弟のアルトワ伯爵(瀬央ゆりあ)、王妃マリー・アントワネット(退団公演となる有沙瞳)、王妃の愛人フェルゼン侯爵(天飛華音)。それぞれが守るもののために命の炎を燃やす物語。
結論、良かったねぇ。今回感じたこととしては、
小池修一郎先生の1幕終わりの盛り上げ方
演出家にとっての法則性、型があるなかで、小池演出のハイライトのひとつは、前半のヤマ場でしょう。やはり上手い! というかテッパン。
小池先生は大作、名作を宝塚流にアレンジする名手。なかでも毎回、1幕の終わり方が「もうこれで帰ってもいいや」と思わせるくらいのクライマックスにして、ハズレがない。
登場人物が、まるで装置を動かしているような複雑なフォーメーションで総登場し、なおかつ「これからどうなるんだ」というサスペンス感を醸し出す。間接的なキューピッドとなるシャルロット(瑠璃花夏さんが好演)に問われた礼真琴ロナンが2階客席に視線を向ける終幕がもう。
礼真琴さんを軸とする演者の層の厚さ
礼真琴&舞空瞳の星組トップスターコンビが盤石なのはもちろん、今回は層の厚さを感じさせるものが。
その筆頭はロベスピエール役の極美慎さん。彼女の成長には目を見張りました。今回は自信を持って堂々と演じていて、革命家としてまだ真っ当だった若かりし日のロベスピエールがぴったりとハマっている。歌唱も上手くなっていて、相当お稽古を積んだであろうことが窺えます。
多くの人のハートを撃ち落としたのが想像に難くない、暁千星さん。こんなに華のある革命家でジャーナリストがいるかよって感じですが、ともかく存在から歌唱、衣装まで、キラキラが止まらない。礼真琴さんの右腕としては、ちょっと出木杉くんな気がします。彼女が歌う「PRENEZ L’ARME 武器をとれ」には、持っていかれましたね。
兄を操りつつ、なんとかオランプをものにしようと暗躍する瀬央アルトワも、堂に入ったクールっぷり。儲け役ですね。
群像劇でキャスト隅々まで見せ場があるが……
宝塚の公演ポスタービジュアルといえば、トップスターふたりのみフォーカスするのが常。アイキャッチ写真のポスター画像で一目瞭然ながら、『1789』は群像劇なのですよね。
つまり本作はトップコンビが出ずっぱりではなく、2番手、3番手そのほか脇役まで見せ場が随所に。そういう意味ではオールラウンダーの礼さんを起用するには、もったいないというか、贅沢な演目と言えます。
手放しで誉めていますが、周りから聞いた意見も含めて疑問符が付く演出もあります。2幕に加わった新曲は今ひとつ魅力が伝わってこない。ロナンがバスティーユの牢番であるオランプの父親を銃撃から守ろうとして倒れる場面は、本国フランス版では民衆の一人として描かれているとか。改変は良いのだけど、わかりやすさに傾くあまり物語の奥行きを削ぎ落としてしまうのは残念。
また、終幕で倒れたロナンが、白色の衣裳に着替えて、舞台上で周囲の人物たちと交わる場面。現世と来世がごっちゃになってしまい、物語として引き締まらないようにも見えます。
まとめ
細かい点を言えばキリがないけど、『1789』が素晴らしい作品であるのは揺るぎなく、演者にも演出にも酔いしれました。
個人的には2幕最初で客席を使った演出があったことにもグッときてしまった。ここまで戻ってきたのだなぁと。巻き起こった拍手はファンの心持ちの表れでしょう。
礼真琴さんは本作後に2か月の休養に入るそうです。
リフレッシュであるととらえていますが、異例のことなので、劇団は建前であってもきちんと発表したほうが良いのでは。何にせよ、礼さんには万全の形で、前人未到の『RRR』に臨んでいただきたいと願っています。
価格:3,159円 |