いやぁ良かったです。『蜜蜂と遠雷』、素晴らしいもの観させていただきました。ここでネタバレはしませんが、興味ある方には鑑賞後にこの記事に目を通すことをお勧めします。
若手の登竜門として、3年に一度開かれる国際ピアノコンクールでしのぎを削る若者たちを描いたドラマ。原作は恩田陸さんの同名小説(幻冬舎文庫)。監督と脚本を『愚行録』(2017年)の石川慶さんが手がけています。
物語の軸となるのは4人。7年間の空白を経てコンペの世界に戻ってきたヒロイン・栄伝亜夜(松岡茉優)、亜夜の幼なじみで名門ジュリアード音楽院に在学する優勝大本命のイケメン奏者マサル(森崎ウィン)、「ピアノの神様」の推薦状を引っ提げ、彗星のごとく現れた風間塵(鈴鹿央士)、加えて「生活者の音楽」を掲げ、年齢制限ギリギリ背水の陣でコンクールに挑む高島明石(松坂桃李)。この4人がコンクールに臨む過程を、亜夜の過去の回想を挿入しつつ描いていきます。
予告編では、4人のうちの誰が栄冠を手にするのかに訴求していました。たしかにそれは重要ではありますが、よりストーリーに力点が置かれているのは、互いを気にかけながら難関に挑んでいく、交流と切磋琢磨であるところ。そこが気に入りました。楽器店に勤務しながら夢を追うサラリーマン奏者・高島明石も素晴らしい腕前という設定ですが、ほかの3人の才能がずば抜けている。
一人の天才少年がコンクールに加わることで、他のコンテスタントが自身の想像をも超えるポテンシャルを発揮する物語
といえるかと思います。
松岡茉優さんは今回、少ないセリフの中で葛藤を表現する難しい役でしたが、いやぁ見事なもんです。いつの間にこんなにいい役者になっていたのかと。亜夜の今昔を知るステージマネジャー役の平田満さんが助演で儲け役。審査委員長を演じた斉藤由貴さんも貫禄。
ギフトとしてコンクールを左右する天才少年を演じた鈴鹿央士さんは、広瀬すずさんのスカウトで芸能界入りした新人だそうで、天真爛漫さは役なのか、それとも多少本人のキャラが入っているのか。いずれにせよ、女子のハートをつかみそうな役を見事にこなしています。
いちいちタイトルを挙げませんが、音楽映画って派手なんですよね。その点、この映画は控えめで洗練された演出。登場人物の心情の移ろい、日常の中にある音楽をピアノソロの中に描いてみせた石川監督の手腕。クラシックに詳しくなくても十二分に楽しめる良作でした。とりわけ連弾のシーンが美しい!
それにしても……天才は大変ですね。自分は凡人で良かったとつくづく思います。