やるねぇ。映像にせよ文にせよ、見どころのある創作の担い手を知るとうれしい(知り合いなら、なおさら)。コメント取りの仕事で、必要あって観た石井裕也監督『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(第91回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位)は、スタッフ&キャストとも才能の集まりでした。ジャストタイミングで上映してくれていた神楽坂ギンレイホール、ありがとう。劇場で観られてよかった。鑑賞後ちょっと言葉にしがたい感傷に襲われました。
昼は看護師、夜はガールズバーで働く美香(石橋静河)と、工事現場を渡り歩く日雇い労働者・慎二(池松壮亮)の出会いから恋のはじまりまで。二人とも言い知れぬ孤独や不安を抱えながら、なんとか日々を生きている。
恋愛にのめりこむ人を冷めた目で見つめる美香、死という言葉に過敏になる慎二。その理由はストーリーが進むにつれ判明していくのですが……。二人のバックボーンを知ると、なるほどそうなってしまった気持ちはわからないでもありません。
が、一方で。もう40代も後半に入った僕からみれば、不器用でナイーブ、青臭いやり取りの数々に「もっと強く生きなさいっ」と叱咤激励したくもなりました。
こんな擦れてしまった大人ではなく、もっと感性みずみずしい人が観ればいい。それは単に若い人というわけではない(それこそ「なんかイタイ」で終わってしまう)。気持ちが優しく、内向的で、不器用で、想像力のある人が見たら、それこそ二人の主人公を抱きしめたくなるだろう。
きちんと覚えていないのですが、「人を好きになるのは、自分を殺すことだよ」というような美香のセリフに考えさせられました。自分を殺す=抑える、いやもっと否定的に「押さえつける」かな。人を変えようとするより、自分が変わるのが健全だと思うけど(なによりもラクだから)。石橋さんが見事に演じる繊細で多感な人が言うと、それはそれはナイフのように鋭く迫ってくる。いろんな解釈もできる。
時に激しく、時に寡黙。時に熱く、時に気だるい。見事なまでに今の気分を映した、新時代の青春映画ともいえます。モチーフとなった最果タヒさんの詩集も読んでみます。
そうそう、美香の父親役で劇団唐組の久保井研さんが出演されていてびっくり。松田龍平、田中哲司と脇もぬかりなく。ていねいに作られているところも触れておきたい。