『仁義なき戦い』の現代版かと先入観を持って『孤狼の血』(白石和彌監督)を観に行ってきました。暴対法成立前、昭和63年の呉市(映画では「呉原」という架空の街)を舞台に、暴力団の抗争とその壊滅を目指し割って入る広島県警による三つ巴の攻防を描くバイオレンス作です。
北野武監督作品のバイオレンスはドライで、暴力シーンは実際に目の当たりにしたような(あるいは当事者になったような)痛みを感じさせます。その点こちらはウェットで古風。今の映画ファンに重きを置きつつ、古き良きヤクザ映画のファンも振り向かせようという頑張りが伝わってきました。
清濁併せ吞み、ヤクザからのわいろを「手数料」とうそぶく刑事・大上(役所広司)。大上=おおがみ=狼というのがタイトルの由来らしい。その大上に対し、正攻法の捜査を主張して対立する大卒の新人刑事・日岡(松坂桃李)。松坂を導く役所という構図と、対立する暴力団(江口洋介、石橋蓮司が好演)と、その裏側で物語のカギを握る女たち(真木よう子、阿部純子)……。
この重層的なドラマ。原作尊重するゆえ仕方ないのでしょうけど、欲を言えば上述のどれかに絞ると、冗長にならずより濃密なドラマになったのではないでしょうか。裏を返せば「一粒で三度おいしい」映画ともいえますが。